2022 Fiscal Year Research-status Report
キセルゴフとマコノヴェツキの手稿譜に基づくクレズマー音楽の研究
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21K12896
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
三代 真理子 東京藝術大学, 音楽学部, 研究員 (30756820)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 東欧ユダヤ音楽 / クレズマー音楽 / 音楽構造 / 演奏様式 / 手稿譜 / ウクライナ / 20世紀前半 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ウクライナで発見された20世紀初期の楽譜資料(キセルゴフとマコノヴェツキ手稿譜)の解読分析を行い、ユダヤ人の米国移住前に中東欧ユダヤ人社会で演奏されていたクレズマー音楽の実態を明らかにするものである。2022度は、形式と旋律、旋法、リズム構造の観点からキセルゴフ手稿譜の分析を行い、またマコノヴェツキ手稿譜の収録曲についても曲目のデータベース化と分類、音楽分析を進めた。しかし2021年2月からのロシアによるウクライナ侵攻と、続く新型コロナウィルス感染の影響で、海外での調査および報告等ができず、上記内容の成果発表は今後行う予定である。 また2022度は、クレズマー音楽が口頭伝承されることに関連して、教育学の視点から、口承による音楽の理解と教育の可能性について考察し、成果を発表した。文化と人間形成・教育の連関を捉え直す上で、特に19世紀以降、優勢であった文字や書物による知識伝達と自己形成に対して、今日の過度な読み書き能力の強化学習を批判し、口承世界での経験と結びついた識字能力の回復の必要性が叫ばれてきた。音楽の理解や学習においても、楽譜や識字能力のみならず口承による学びが重要であり、例えば東欧ユダヤ民俗音楽であるクレズマー音楽が、現代において復興・伝承される過程では、聴く/真似るという活動の反復的な経験と、コミュニティでの学びを特徴とする、口承による学びが重要な役割を果たした。日本の小・中学校の音楽科の授業での学習を考える際も、こどもの人間形成を達成する上で、識字による学びだけでなく口承による学びが重要であることを主張した。 さらに2022年度は日本ユダヤ学会編『ユダヤ文化事典』の編集作業と項目の執筆を行った。「クレズマー音楽」の他、同じ東欧ユダヤ音楽である「ハシディズムの音楽」、「イディッシュ民謡」、「ハザンの礼拝歌」について一般向けにわかりやすく解説した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロシアによるウクライナ侵攻と、続く新型コロナウィルス感染の影響で、海外での現地調査と報告ができなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は第一子の出産に伴い、産休・育休で研究を一時中断するが、再開後は次のように調査を進める。2024年度は、研究対象である、キセルゴフとマコノヴェツキの手稿譜の①収録曲の音楽分析と、②従来のクレズマー音楽に関する研究成果との比較に基づく考察、③クレズマー音楽の理論体系の再構築を中心に調査を行う。①は、形式と反復、旋律型の特徴、旋法、転旋、拍子、リズム等の構造と、装飾音やフレージング、アーティキュレーション等の演奏様式の観点から実施するものだが、特に、曲のジャンル(曲が演奏される儀礼や舞踊形式)ごとに、その音楽的特性を分析する。そのために既に調査を終えた、現代演奏家によるクレズマー音楽のジャンル認識を手掛かりに、各ジャンルの機能(歩く、踊る、聴く等)と性格(厳粛、叙情的、陽気等)と結びつく拍子、リズム、テンポ、旋律のフレージング、旋律展開、旋律のリズムに焦点を当てて調査を進める。最終年度は、前年度までの分析と考察を踏まえ、クレズマー音楽のレパートリー、音楽構造、演奏様式に関する体系を再構築する。その中で、とりわけ20世紀前半から米国で発展し現代までクレズマー音楽と、中東欧ユダヤ人社会で演奏されていたクレズマー音楽との比較を行い、両者の違いと類似性を、音楽を取り巻く環境との関連の中で考察し、得られた結果を取りまとめ、口頭発表と再現演奏、論文の形で成果発表を行う。
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Causes of Carryover |
今年度は新型コロナウィルス感染拡大と、ロシアのウクライナ侵攻のため、海外での現地調査および研究成果報告ができなかった。研究を再開する2024年度から、これらの海外での活動を行う予定である。
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