2022 Fiscal Year Research-status Report
焼物産地の地域創造性を高めるハブとしての窯業組合の役割:日本六古窯の比較考察から
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21K12905
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Research Institution | Yamato University |
Principal Investigator |
立花 晃 大和大学, 社会学部, 准教授 (10781841)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 焼物組合モデル / コロナ禍における焼物産地 / 地域レジリエンス / 若手作家・職人継承モデル / フィールドワーク / アンケート / 産地モデルの比較 / “藝”と“業” |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、研究題目の通り、鎌倉時代より焼物の生産が続く窯業都市群である“日本六古窯”とそれら地域の焼物組合を中心に調査を行ってきた。 本年度当初より、昨年度に引き続き文献調査及び各産地の現地調査を行った。それに基づき調査計画を立て、週末や夏季、春季休暇期間などを用いて各産地のフィールドワークを行った。本年度の実地調査では、まずは主に日本六古窯のうち、生産品の傾向と窯業従事者の形態の傾向から分類したモデルのうち、主に一品ものの生産を行い、かつ個人での協働を行っている産地の代表的モデルである備前と、量産ものの生産を行っている“業”の代表的産地である瀬戸、個人での生産の傾向の強い常滑を中心に、フィールドワークを行った。その際、補足調査として美濃に関しても調査している。 今回の調査では、基本的な視点として、昨年度に引き続きコロナ禍における産地の現状及びアフターコロナを見据えた実践、また、新たに浮上したサブテーマとして、各産地における継承者の育成に関して聞き取りやアンケート中心に調査を行った。 対象は、各産地の焼物組合及び組合員、作家、窯元(今回、人間国宝の作家にも話を聞くことができた)などである。 結果、特に意義深い結果は、丹波篠山では焼物組合や若手作家グループが中心となってコロナ禍における諸対策やプロモーション、若手育成までを行っており、フェーズごとの成長モデルが明らかとなったことである。また、かつて“業”に対する“藝”の産地の代表格であった備前も、組合の管理する“土”そのものが減少していることに加え、設備に関する初期投資や師匠の選定など、若手作家の新規参入の障壁が極めて高い現状が明らかとなった。 今回得られた研究成果を、22年9月に行われた日本計画行政学会第45回全国大会及び、23年3月刊行の大和大学社会学部紀要論文、龍谷大学LORCにて発行の叢書...等で、研究成果を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、計画書でも示した通り、日本六古窯市町(常滑市、越前町、備前市、甲賀市、丹波篠山市)、について、生産品の傾向と窯業従事者の形態の傾向を加味 して分類したA群(丹波篠山が中心)とB群(常滑が中心)の2タイプのうち、初年度に既に丹波篠山と常滑の現地調査において、今後の研究にとって重要なデータが得られている。 現地調査では、今年度は特にアフターコロナにおける各産の取り組みや、地域レジリエンスに関してヒアリング調査及びアンケート調査を中心に 行った。その際、コロナ禍で廃業したり、離陶したりする事例も見られ、新たに継承したり新規参入する際の支援やネットワークづくりの重要性があらためて浮き彫りになった。そして、組合も含めた産地全体として、今後どのような未来像を描くことができるのかについて調査することが、本研究の最終年度に向けた大きなテーマとして浮上した。 研究全体としては、エフォートや予算の配分も含めていずれもほぼ当初計画の通り進んだが、一部予定していた研究会の開催やヒアリングなどにおいて、コロナ禍の影響でやむなくリモートによる調査を行ったり、アンケート調査に切り替えるケースも引き続き生じた。 また、コロナ禍特有の状況として、焼物市や展示会、 ギャラリーや美術館などでの展覧会が、今年度当初も動きも鈍く、中止されたケースもあったが、徐々に回復基調にあり、今後再開とともに調査する予定である。そうしコロナ禍に際しての特殊なケースを除き、当初予定通りに研究は進捗していると考えている。また、研究成果のアウト プットに関しても、22年度は当初計画通りか、ややそれ以上の成果を生み出せた。 22年度の研究活動全体としては、各産地の新たな課題としての組合が管理する“土”自体の減少や継承者の確保に悩まされている産地が多かったことが明らかになり、これらを更に深掘りすることが次年度への課題として浮かび上がった。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度は、日本六古窯の内、引き続き丹波篠山及び常滑についても現地調査を行う予定であるが、近隣の瀬戸や多治見、場合によってはその他の産地なども補足的に訪れながら現地調査を行うつもりである。それにより、上記進捗状況の項で記述した土の不足や人材不足などの現状が、果たして六古窯の産地特有の状況なのか、他の産地においても慢性的に起こっていることなのかについても明らかにしたい。 また、未だリモートなどの方法で各産地の組合や作家その他の関係者にインタビューを行なったものの、実際には訪れてはいないていない越前及び信楽についても年度内にフィールドワークを行う。昨年度同様、六古窯市町ではなくとも、他の焼物産地にも補足的に足を伸ばして現地調査を行い、六古窯市町の産地としての特徴や課題を、より浮かび上がらせようと考えている。 その際、たとえば有田、九谷なども参考となる。研究全体に関して、ヒアリングやアンケートの対象としては、当初に引き続き、それぞれの産地の焼物産業に関連する各組合組織及び組合員を中心として、作家、窯元、焼物美術館、研究所、若手作家グループ...等を対象に調査を行う。 上記、研究の進捗の項でも記述したが、22年度は21年度と比較してコロナ禍で中止ないし延期などとなってた焼き物市や展示会、販売会などが徐々に再開されたため、可能な限りそれらにも訪れ、現地視察を行ったが、23年度も主催者や出品作家など関係者などにも話を聞きたい。 また、引き続き精力的に現地に入流ことで、調査を行って行くつもりであるが、その際、当初の目標のとおり、各産地の焼物組合の持つ機能と役割に加え、各産地の人材継承モデルについても明らかにするつもりである。それらを明らかにすることで、焼物組合と地域との関わりの中から、今後の六古窯の産地としての生き残り戦略や実践、それぞれの未来像などについても明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
22年度の使用分の残額及び、23年度使用額について、計画書に記載した通り、1年目と2年目に調査した際に“残された課題及び新たに必要性が生じた調査”に関し、最終年度で追加で調査するための経費に充てる。具体的には書籍の購入や旅費、研究会の開催、及びそれらの際の招聘者、インタビュイなどへの謝金など。また、その中には、コロナ禍のため1年目、及び2年目に断念した現地調査に関する経費も含まれる。
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