2022 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の詩的言語における文明批評性に関する包括的研究
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21K12927
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
田口 麻奈 明治大学, 文学部, 専任准教授 (80748707)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ピサ詩篇 / エズラ・パウンド / アメリカ建国の理想 / 「きけ わだつみのこえ」 / イギリスの戦死者追悼 / 翻訳詩 / 花崎皋平 / 小田島雄志 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、現代詩の金字塔であるT.S.エリオットの『荒地』100周年という節目にあたり、多くの関連企画にたずさわった。まず、日本T.S.エリオット協会の記念論集に、論文「日本の戦後詩壇の出発とパウンド/エリオット」を執筆した。エリオットの『荒地』のもう一人の作者ともいえるエズラ・パウンドに注目し、日本の「荒地」グループ、特に鮎川信夫が、戦後のパウンドの問題作「ピサ詩篇」を自作に引用・摂取していたことを明らかにした。これにより、日本の戦後詩人たちが単にエリオットを受容するのみならず、パウンドを経由してエリオットを批評する視座を持ち得たことを指摘した。また、同じく日本T.S.エリオット協会の年次大会〈シンポジウム 彼岸と此岸をつなぐもの〉にパネリストとして登壇し、口頭発表もおこなった。ここでは、1980年代における、鮎川信夫によるエリオット体験の捉え直しに注目し、エリオットの研究史とも関わる80年代の思想的課題について議論した。 また本年度は、戦後詩を下支えする広範な時代状況の検証の一環として、五〇年代の東京大学の詩誌「ぼくたちの未来のために」の復刻版(琥珀書房)を刊行にこぎ着けた。その別冊として解説(約五万字、七〇頁)を執筆し、当時の海外の詩人の翻訳・紹介の状況、キリスト教を媒介とする学生間の連帯意識、原子力や核実験をめぐる若い詩人たちの議論の詳細など、多くの課題に光を当てつつ、本誌に発表された詩篇の意義を捉え直した。これにより、「荒地」グループ以降の詩における文明批評性の特徴の一端を捉えることが出来た。この復刻誌をめぐっては、次年度以降、より広い思想史と接続するためのシンポジウムを開催する予定である。 そのほか、戦後詩人として注目度の高い石原吉郎に関する「研究動向」の執筆、高校の国語教科書の詩教材の選定、指導ガイドの執筆などをおこない、本研究の蓄積を活かすよう努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究課題と関わりの深いT.S.エリオット関連の企画が多く、執筆依頼や登壇依頼を受けたことから、安定した成果発表の機会を得ることが出来た。これにより新たな構想や研究交流も生じ、非常に発展的な成果に繋がったと考えている。ただし当初の計画からすると、別の角度から立論する予定であったものをエリオットに繋ぎ直したため、論の中に組み込めなかった素材や観点も残された。これらを形にする作業は次年度以降の課題としたい。 また、詩誌「ぼくたちの未来のために」の復刻については、通常の解題の範疇を大きく超える分量の解説を執筆することとなった。これにより、単に一つの詩誌の活動記録に収まらない議論を展開することができ、広く問題提起的な内容になったと考えているが、そのぶん刊行時期を大きく遅らせてしまっており、当初に予定していた本研究課題の作業を圧迫したことも否めない。雑誌『世界文学』や田村隆一をめぐる研究の成果発表も急ぎたい。 また本年度から対面での国際学会への参加が可能な状況となり、申請者も幸いに体調面での問題を生じなかったことから、積極的に参加することが出来た。アメリカにおけるアジア研究の学会(AAS、ボストン)へ参加し、多くの海外の研究者と対話の機会を得ることが出来たほか、東京で開かれた国際研究集会(「世界文学としての〈震災後文学〉」、於津田塾大学および立命館大学)ではコメンテーターとして登壇し、多和田葉子や川上未映子ら現代詩人/作家の近作をめぐって議論した。核と原子力をめぐる現代詩人や作家のありかたは、五〇年代における同じ課題を探求している本研究にとっても重要な参照先である。こうした議論に参加したことで、横断的で多層的な戦後詩研究を促進できたと考えている。 以上のことから、主として依頼に基づく計画外の活動で大きな成果を得ている一方、当初の構想には遅れも生じている。従って(2)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度から、covid-19の影響による海外渡航の制限が徐々に緩和されてきており、国際学会や海外の大学への調査出張がより広い範囲で可能になると予想される。ただし、環境や体調面での個人差は依然として大きく、対人交流を伴う研究活動への参加をめぐって、場合によっては慎重な調整が必要である。 本研究でも、ヨーロッパにおける最大の日本研究の学会(EAJS)において、最終年度までに複数の研究者とのパネル発表を申請する予定であったが、準備期間も含めて調整が難しいという結論に達したため、構成を変えて国内でのパネルシンポジウムに変更した。登壇者も国内の研究者に限られるが、オンライン併用の開催とし、広く参加者を募る予定である。また、出来る限り他領域にわたる登壇者を設定することで、本研究の課題に沿い、多層的な研究ネットワークの構築を進めるつもりである。
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Causes of Carryover |
参加した国際学会(AAS)および研究集会の開催が年度末の3月であり、諸経費を精算可能な時期を過ぎていたため、手続き上、次年度へ持ち越しとなったが、実態としては当該年度内に使用している。海外渡航に関しては航空券や宿泊費が高騰しており、予算を超過してしまったので、引き続き効率的な研究費使用を心がけたい。
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Research Products
(7 results)
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[Book] 『四月はいちばん残酷な月 ――T.S.エリオット『荒地』発表 100 周年記念論集』2022
Author(s)
中井晨,田口哲也,山本勢津子,瀬古潤一,山口均,太田純,林依里子,Tamar Mebuke,鈴木綾子,池田栄一,米澤光也,小原俊文,出口菜摘,田口麻奈,圓月勝博,井上和樹,佐伯惠子,齋藤純一,進藤秀彦,野谷啓二
Total Pages
452
Publisher
水声社
ISBN
978-4-8010-0687-4
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