2023 Fiscal Year Research-status Report
日本文学に描かれた捕虜(POW)の通史的研究:国際法とレイシズム問題を中心に
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21K12929
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
金 ヨンロン 大妻女子大学, 文学部, 講師 (60806595)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 捕虜問題 / 戦争裁判 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画で示した通り、本研究の主要な目的は、捕虜を描いた日本文学を調べ、時期別にリスト化することである。そして捕虜を扱った文学作品群は、捕虜問題を重視した東京裁判やBC級裁判といった戦争裁判を描いた作品群と重なる。具体的に2023年度の実績としてまず挙げたいのは、戦争裁判を取り扱った作品のリストを末尾に付した単著、金ヨンロン『文学が裁く戦争――東京裁判から現代へ』(岩波書店、2023年11月)を刊行したことである。そのなかで、捕虜問題が時代別にどのように認識され、語られてきたのかということを大まかに素描することができた。また、岩波新書という形でより多くの読者に積極的に研究成果を伝えることができた。 また、カナダのUBCで研究調査を行い、捕虜に関連する資料(手記や文学作品)を調べると同時に、研究発表を通してその成果を発信した(Younglong Kim, Akito Sakasai, Pau Pitarch Fernandez (Moderator, Christina Yi)「Panel 5: Global Japanese Studies in Japan」(『Rethinking Global Japanese Studies Symposium』2024年3月11日、UBC)。 他にも、レイシズムの問題とかかわるような研究業績として、映画評(金ヨンロン「映画『福田村事件』と〈誤認説〉」(特集 関東大震災一〇〇年と文学 映画『福田村事件』批評集)(『社会文学』59号、91-94頁、2024年3月))を挙げることができる。また、連続座談会を通して、本研究のより大きな文脈化を行った。その成果の一部は、宇田川幸大、内海愛子、金ヨンロン、芝健介「連続討議 戦争責任・戦後責任論の課題と可能性(上) 」(『思想』1199号、125-142頁、2024年3月)に掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの成果を単著に書き上げる一方で、カナダなどで現地調査や成果の発信も行い、計画通りに順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、韓国の国際シンポジウムにて捕虜問題に関する発表を行い、様々なバックグラウンドをもっている研究者たちからコメントをもらうと同時に、韓国において進んでいる「捕虜と文学」の研究(朝鮮戦争を中心とした文学研究)について調査を行いたい。一方で、国内の文献を通して、オーストラリア文学における捕虜問題の基礎的な研究を行い、2025年度の長期研究調査の事前準備としたい。また、それらの成果をまとめて学術論文として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、研究成果を単著にまとめるのに主眼を置き、当初の計画より出張日数が少な目になったため、次年度の使用額が生じた。次年度以降、研究調査の準備を着実に進めると同時に、その成果を発表する場(シンポジウム)の開催などを実現していく予定である。
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