2021 Fiscal Year Research-status Report
宗碩を中心とした中世源氏学の実態解明に関する基礎的研究
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21K12936
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
松本 大 関西大学, 文学部, 准教授 (30757018)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 宗碩 / 『萬水一露』 / 『源氏物語』 / 中世源氏学 / 注釈書 / 享受資料研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中世源氏学における諸注釈書の性質について、従来説で重視されて来なかった説の受け手(対象者)という視点を加えることにより、抜本的な捉え直しを行うものである。具体的には、室町中後期に活躍した連歌師・宗碩を研究対象の中心に据えた上で、①宗碩の源氏学の成立基盤と学問的背景に関する研究、②『萬水一露』の基礎的研究、③宗碩の源氏学の継承・流布に関する考究、以上の三点を統合的に扱っていく。 ①では、宗碩が、師である宗祇の源氏学をいかに継承し、発展させたのか、という点を把握する。具体的対象としては、宗祇の源氏学の始発である『河海抄抄出』『花鳥余情抄出』を中心的に取り上げ、宗祇晩年の著作である『雨夜談抄』『紫塵残幽』『源氏物語不審抄出』までも加え、現存伝本の基礎的調査や注釈内容の検討を行い、宗碩の諸著作との関連を解明する。今年度は、『河海抄抄出』を中心に検討を加えた。 ②では、宗碩の源氏学を把握する際、最も基幹となる注釈書である『萬水一露』について、諸伝本の位置付けと、それに基づく本書の成立過程の再考、及び、注記内容の精査を通した本書の性格を再提示を行うものである。今年度は、陽明文庫蔵本の本文検討を中心に、今後の研究の基盤整備を行った。 ③では、説の受け手(対象者)という視点のもと、さまざまな『源氏物語』享受の実態を分析する。中心的な研究としては、『萬水一露』の享受の観点を中心に、地下の源氏学や諸学問分野に与えた宗碩の影響を明らかにし、室町後期から近世初期における、宗碩の源氏学の意義を提示を目指す。中心的な対象としては『聞源抄』を扱い、本書の基礎的な研究を加えることとする。ただし本年度に限っては、コロナウイルス蔓延のため、当初計画を変更し、享受資料研究として、林原美術館蔵『伊源物語絵巻』・安住院蔵本『源氏物語』断簡の調査を行い、学会での口頭発表と論文執筆を行うことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究は、新型コロナウィルスの蔓延の影響を受け、当初の計画に比して、十分な研究成果をあげられなかった部分がある。 ①に関しては、『河海抄抄出』について、使用された『河海抄』の本文系統の特定を行うとともに、注釈のどの部分が抄出されていくのか、いくつかの事例について検討を加えた。宗祇の施注態度の一端を明らかにしつつも、他の著作との連動に関しては、なお検討が必要であるとの結論を得るに至った。 ②については、当該研究の基幹資料と位置づけた、陽明文庫蔵本を対象とした基礎的調査を行った。陽明文庫蔵本については、当初の計画では陽明文庫にて調査させていただく予定であったが、コロナ禍のため、断念せざるを得なかった。代替措置として、紙焼写真を使用しながらの研究を行ったものの、実見せねば判断が出来ない箇所も多く、難航した。次年度、閲覧調査が可能になった際にまとめて検討を加えるものとする。 ③においても、『聞源抄』の研究に関しては、狩野文庫蔵本への基礎的考究は当初の予定通りに加えられたものの、本年度に計画していた各所蔵先への調査については、コロナ禍の影響により全く行うことが出来なかった。また、説の受け手という視点のもと、本年度は、林原美術館蔵『伊源物語絵巻』の源氏絵部分を対象に、当該絵巻作成の背景について考察を加えることが出来た。成果の一部については公開シンポジウムで報告したが、残された課題もあるため、次年度以降も継続して取り組みたい。なお、③に関わって、本年度は、岡山市・安住院に蔵されている鎌倉期書写の『源氏物語』夕顔巻断簡に触れられる機会に恵まれた。本研究の本質は、『源氏物語』享受の実態を様々に分析する点にあるため、当初予定には含まれていなかったが、安住院蔵本に関する基礎的研究を加えることとした。具体的な成果としては、学会での報告と、二本の論考(次年度に刊行)にまとめることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降の研究推進については、研究計画、研究方策ともに、当初の計画に基づきながら行うものとするが、本年度に計画していた各所蔵先への調査については、優先的に行いたいと考えている。具体的には、安田女子大学・九州大学・岡山大学について、可能なかぎり早い段階での調査を行いと考えている。また、今後も十分に原本調査が行えない可能性もあるため、適宜、国文学研究資料館所蔵のマイクロフィルム・紙焼写真も用いていく。 ①においては、本年度に引き続き、『河海抄抄出』に関する基礎的調査を行うとともに、『花鳥余情抄出』を含めた、両書に見える源氏学を統合的に把握することを目指す。 ②については、『萬水一露』の成立過程に関する本年度の成果をまとめ、学会で口頭発表する予定にある。なお、本年度に確認が取れなかった部分については、次年度の早い段階で補完を試みることとする。 ③に関しては、所蔵先への原本調査が大きな比重を占めるため、場合に応じて①や②の研究課題を優先させようと考えている。そのため、②と連接する部分については、統合的に扱うことも視野に入れ、必要に応じて柔軟に計画を変更させるものとする。
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Causes of Carryover |
当初計画していた、所蔵先への原本調査が行えなかったため、これに関する調査旅費・データ整理に関する費用等について本年度内での使用が難しくなった。本年度は、可能な限り、2年度目・3年度目に行う予定であった研究を前倒しして行ったものの、次年度に行う調査をより拡充させるため、61千円強については繰り越すこととした。 次年度に繰り越したものについては、調査旅費・データ整理を中心として、有効に使用する。具体的には、当初予定よりも2回分の調査を追加する計画にある。
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Research Products
(3 results)