2021 Fiscal Year Research-status Report
マルセル・プルーストの「アマチュアリズム」についての研究
Project/Area Number |
21K12963
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
浅間 哲平 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (00735475)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | マルセル・プルースト / ゲーテ / シラー / ディレタンティズム / 愛好家 / 蒐集家 / コレクター |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲーテ(1749-1832)は短篇小説「収集家とその友人たち」(1799)と未完の断章「ディレッタンティズムについて」(1799)を、シラー(1759-1805)との協力のもと残している。そこで、この作家は芸術への情熱を人間の「衝動」としてとらえ、収集や「芸術実践の楽しみ」が人間に与える影響について思索している。ここで問題となっている「ディレッタント」は、イタリア語の「誰かを楽しませる(si diletare)」という語に由来し、16世紀以来、主に宮廷音楽家たちを指す用語であった。この用語は、1760年頃より英仏独語圏で「名手(virtuoso)」、「愛好家(amateur)」、「賛美者(Liebhaber)」といった概念と競合するようになる。ゲーテは、「真の芸術家とは、同時に芸術の唯一の観客、いわゆる愛好家なのである」と述べ、「受動的に楽しむ愛好家」と「能動的に制作する芸術家」を統合し、両者の結合を探求する独自の理論を構築していた。 ドイツ語を読むことはできたものの、プルーストがゲーテのこれらのマイナーな著作を手に取ったとは考えづらい(「ディレッタンティズムについて」の公刊は1896年)。しかし、1896年の手紙で、ゲーテとシラーの書簡が作品の思想の説明になっているかどうかを話題にしており、二人の書簡集を読んでいた事実が知られている。このことから、プルーストはそこで話題になっているディレタントについての記述を知悉していたであろうと推測される。 本年度は、ゲーテがプルーストに与えた影響について調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正確な執筆時期はわかっていないが、プルーストはゲーテについての断片(フランス国立図書館所蔵草稿帳N.A.Fr. 16636)を残しており、そこで『親和力』と『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』を分析していることは重要である。というのも、「収集家とその友人たち」と「ディレッタンティズムについて」は、この二作品の中で、その思想が十全に発展させられたからである。 本年度は、当該のプルーストの草稿を読むことから始めた。さらに、当時のフランス語訳のゲーテの書簡について調査した結果、複数のものが存在し、プルーストがどの翻訳を参照していたのかを突き止める必要があることが判明した。また、ゲーテの小説を参照しつつプルーストの書いたメモ書きを読むことで、そこで問題とされるディレッタンティズムがどのようなものであるかを考察することができた。 2022年3月にフランスで公刊された新しいプルースト作品の校訂版(PROUST, ESSAIS, EDITION PUBLIEE SOUS LA DIRECTION D'ANTOINE COMPAGNON, PARIS, GALLIMARD, BIBLIOTHEQUE DE LA PLEIADE, 2022)においても、この点はまったく解明されておらず、これからの研究がまたれる。 以上のようにプルースト研究に新しい知見をもたらす準備ができたので、本研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ジョン・ラスキン(1819-1900)はプルーストの芸術観に大きな影響を与えた作家として知られている。1903年にラファエル前派を論じた文章でこの作家を「愛好家としての芸術家」と称賛していることからも分かるように、プルーストは一貫してラスキンがどのように芸術を「愛する」かという視点からこの美術批評家を理解しようとした。そのことは、大聖堂を訪れるための一種のガイドブックとなっている『アミアンの聖書』(1880-1885)を翻訳することで、フランスにラスキンを紹介したことからも窺える(1904年刊行)。 膨大な著作を残したラスキンからプルーストが受けた影響については、非常に多くの先行研究があるが、まずはこの全体像の把握をアマチュアとしてのラスキンという視点からやり直したい。
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