2021 Fiscal Year Research-status Report
ジャン=ジャック・ルソーの自己表象と間主体性―書簡・論争・自伝
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21K12966
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
齋藤 山人 日本大学, 芸術学部, 講師 (60850534)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 書簡 / 自伝 / 著名性 / 作家像 / 言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、日本から取り寄せられる『ジャン=ジャック・ルソー書簡全集』を可能な限り入手し、読解する作業を行った。特に1760年代の書簡を中心に分析しつつ、無名の書き手による書簡まで含めて、ルソーが同時代の世論においてどのような人物像を付与されているのかを分析した。当初の予定では、夏季にヨーロッパに渡航して、ジュネーヴ図書館やヌーシャテル図書館、さらにフランス国立図書館や国立古文書館で文献調査を行い、在仏の18世紀研究者とコンタクトをとる予定であった。また、国内の他大学が所蔵している貴重資料の閲覧、及び研究に関する打ち合わせのために国内出張も行う予定もあった。しかし、令和3年度中にコロナ感染症の拡大が十分に終息しなかったため、自宅や大学研究室で遂行することのできる研究作業に専心することとした。具体的には、国内で入手することのできた『デュクロ全集』を参照しつつ、ルソーとシャルル=ピノ・デュクロの言語思想を比較して、前者の作家としての特異性を同時代的な文脈において捉えることを試みた。その成果は『芸術研究所紀要』2021年号に学術論文として掲載されている。また、デュクロの自伝とルソーの自伝を比較しつつ、著名作家が自身の生い立ちや家族環境をいかに演出して、自らの作家像を構築していくのかを考察した。この成果は令和4年度、18世紀フランスにおける家族の問題を主題とした論集に掲載される予定である。さらに、近刊予定の啓蒙思想関連の事典のために、依頼された項目の執筆を行った。ここには、パリ中心主義を批判するルソーの作家としての自己演出を分析した、令和3年度の研究成果が反映されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、令和3年度の夏季にヨーロッパに渡航して、ジュネーヴ図書館やヌーシャテル図書館、さらにフランス国立図書館や国立古文書館で文献調査を行い、在仏の18世紀研究者とコンタクトをとる予定であった。また、国内の他大学が所蔵している貴重資料の閲覧及び研究に関する打ち合わせのために国内出張も行う予定もあった。しかし、令和3年度中にコロナ感染症の拡大が十分に終息しなかったため、上記の出張計画を実現することができなかった。また、同様にコロナ感染症拡大の影響で、海外からの文献の取り寄せに予想外の時間がかかり、年度中に必要な資料を揃えることができなかった。以上が、研究作業の遅延の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度も、ジャン=ジャック・ルソーの書簡と論争的著作の読解・分析作業を継続して、特に1760年代を中心に、ルソーが自ら構築した作家像と、それが彼の著作の受容に与えた影響について考察する。その際に重要な比較対象となるのが、シャルル=ピノ・デュクロであり、デュクロの自伝的著作を分析しつつ、ルソーの自己表象との比較を行うこととする。ヨーロッパへの渡航が可能になれば、夏季にフランス国立図書館や国立古文書館、さらにジュネーヴ図書館やヌーシャテル図書館で文献調査を行い、次年度に開催予定の国際シンポジウムに招聘する在仏研究者とコンタクトをとる予定である。また、国内の他大学が所蔵している貴重資料の閲覧・調査のために国内出張も行う予定である。同時に、令和3年度に国内の研究者と立ち上げた、フランス語圏の言語と文化に関する研究会を継続し、研究集会ないしシンポジウムの開催を目指して、定期的に打ち合わせを行う。この研究会においては、ルソーにおける新語や古語の使用と、それが彼の文体において生じた効果について分析する予定である。令和3年度に、日本大学芸術学部の『芸術研究所紀要』2021年号に投稿した学術論文においては、デュクロとルソーの言語観を分析したが、ルソーの文体研究は、言語思想という観点から、ルソーの作家像と自己表象の研究を発展させるものである。この際には、デュクロだけでなく、ルイ=セバスチャン・メルシエの言語思想も比較考察の対象とする。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、令和3年度の夏季にフランスとスイスに出張して、文献・資料の調査と収集を行う予定であった。しかし、コロナ感染症拡大が終息しなかったため、旅費を執行することができず、当初の研究費使用計画を変更することを余儀なくされた。その結果、研究遂行に必要な資料をヨーロッパから取り寄せることとなったが、これもコロナ感染症の影響により、日本に取り寄せるまでの時間が予想外にかかり、年度内に執行することのできない使用額が発生してしまった。以上が、次年度使用額が生じた理由である。 次年度の使用計画としては、令和3年度に行うことのできなかった海外出張を行い、スイスのジュネーヴ大学図書館と、フランスのパリ国立図書館において文献・資料の収集を行うこととする。また、18世紀フランス文学・思想関係の書籍や、メディア研究関係の書籍・資料を購入する予定である。さらに、出張先で資料(特に電子データ)を分析したり、文書作成する際に必要となるノートパソコンも購入するつもりである。
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