2023 Fiscal Year Research-status Report
ジャン=ジャック・ルソーの自己表象と間主体性―書簡・論争・自伝
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21K12966
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
齋藤 山人 日本大学, 芸術学部, 講師 (60850534)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ジャン=ジャック・ルソー / 自伝的著作 / 聖書 / 間テクスト性 / 知識人 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、ジャン=ジャック・ルソーの自伝的著作、特に『ルソー、ジャン=ジャックを裁く』(通称『対話』)の読解・分析作業を進めた。この著作において、ルソーが作家としての自らの立ち位置をどのように表現し、読者からの信用をいかに確保しようとしているのか明らかにしようと試みた。その際に特に注目したのが、同時代のフランス語訳聖書との関係である。18世紀当時にルソーが参照することができたと考えられる、いくつかの聖書の記述(特にマタイ福音書)と『対話』のテクストを比較することによって、彼が自伝的著作において展開した、自己表象の戦略を分析した。特に、ルソーが自らの迫害・流浪を描く際に、聖書におけるイエスの形象が巧みに援用されている。2023年度は、『対話』のコンディヤック草稿を分析することによって、上記の分析に根拠を与え、2024年3月の欧米言語文化学会・第145回例会において研究発表を行った。また、この研究作業の過程で、インテレクチュアル・ヒストリーや知識人の歴史に対して、さらなる関心を寄せる必要に迫られた。そのため、2023年の夏季にフランスに渡航し、パリ・フランス国立図書館において、ルソーの自伝的著作の分析に必要な文献・資料の収集を行った。また、その機会にフランス国立公文書館でも調査を行い、ルソーの伝記的事実に関わる資料を参照した。以上の研究結果は、2024年度の『芸術研究所紀要』に投稿予定の研究論文において、部分的に発表される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、2023年度内に研究論文を発表する予定であったが、2024年3月の欧米言語文化学会・第145回例会における口頭発表以外に、研究成果の報告を行うことができなかった。その理由として、18世紀におけるフランス語訳聖書に関する情報の入手に苦労したことと、知識人の歴史という大きな視点で本研究の方向性を見直したことにより、先行研究の整理・考察に時間をかけたことが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、2023年度に引き続いてジャン=ジャック・ルソーの自伝的著作、特に『対話』を読解しながら、その中に見られる間テクスト性を分析する予定である。『対話」のテクストが、宗教の問題を通じて、論争的著作『山からの手紙』と関係を持っている点については、前年度の研究作業によってすでに先鞭をつけている。今後は二つの著作の関係性を、さらに総合的に考察する予定である。その際に重要な論点となるのが、イエスに対するルソーの評価である。キリスト教(教会)の問題と連続しつつも、それとは少し位相を異にする、作家像に関する問題として、二つの著作の宗教論を読み解くことにより、ルソーにおける「知識人」とイエスの形象の関係を考察する予定である。このような観点から、『学問芸術論』とその後の論争、さらに、『寓意的断章』や『エミール』第四巻の「サヴォワ助任司祭の告白」を再読し、ルソーが作家としてのキャリアを始めて以降、「知識人」に対する考察をどのように発展させたのかを分析することにする。研究作業を進めるために、国内各地の大学が所蔵する貴重文献や研究資料を参照する予定である。また、研究成果については、2024年度以降、日本大学芸術学部の『芸術研究所紀要』や各種学会誌に研究論文として投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、国内外の研究者を集める国際シンポジウムを開催する予定であったが、参加者の都合がつかず実現することができなかった。次年度使用額については、国内外の大学図書館や公文書館で資料収集・調査をするための出張旅費に充当することを予定している。
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