2021 Fiscal Year Research-status Report
19世紀における子ども観の転換点としての「子どもの死」― シュトルムを例として
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21K12968
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
藤原 美沙 京都女子大学, 文学部, 講師 (20760044)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シュトルム / 子どもの死 / 詩的リアリズム / シュティフター / 障がい |
Outline of Annual Research Achievements |
「子どもの死」という研究課題について、初年度は19世紀西欧諸国における「子ども」と「死」、それぞれに関する文献収集に努めた。さらに、両者間を繋ぐ一つのキーワードとしての「障がい」を含めて、以下の3点について研究を進めることができた。 1)近代市民家族が形成されていく当該時期の西欧諸国において、「子ども」は未来に対して開かれた存在として捉えられており、「子どもの死」が周囲の人間にもたらす悲哀の感情は、文学作品内に昇華される傾向にあった。 2)「子どもの死」と同様に、周囲の注目をひく文学表象として、ドイツ語圏詩的リアリズムにおいては、社会的支援を必要とする身体的・精神的「障がい児」が描写される傾向にあったことを、シュトルムと同じく詩的リアリズムの作家シュティフターの『電気石』を例に明らかにした。 3)シュトルムの『白馬の騎手』に登場する子ども「ヴィーンケ」は、最終的に洪水を鎮めるための犠牲となったが、生前から死者の世界と結び付く存在であることを強調する描写が散見される。また、彼女は精神的に成長しない子どもであり、そのことを母親が思い悩む場面も挿入されている。こうした描写は、白痴は治療も教育も不可能である、という19世紀初頭の一般的な見解を(シュトルムは19世紀後半の作家であるにもかかわらず)素地としており、「永遠の子ども」としての神秘性と同時に「成長できない子ども」に対する悲哀をあらわしている。 2)については7月にハイブリッド形式で開催された国際独文学会(IVG)にて発表し、ドイツ語でまとめた論文が受理されている。3)は現在論文としてまとめており、日本シュトルム協会の年報に投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大により、北ドイツフーズムにあるシュトルムアーカイブでの資料収集は中止せざるを得ず、当初予定していたシュトルムの『水に沈む』に関する研究を思うように進めることができなかった。しかし、2021年7月に国際独文学会(IVG)がハイブリッドで開催されたため、国内から参加して口頭発表を行なうことができた。その他、国内での資料収集はできるかぎり進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの感染拡大状況によるが、ドイツでの資料収集、分析考察を集中的に行ない、シュトルムの『水に沈む』について独文学会秋季研究大会で発表し、日本独文学会学会誌『ドイツ文学』に投稿する予定である。『白馬の騎手』論は6月にシュトルム協会の年報に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していた海外出張を中止せざるを得なかったうえ、国内学会もオンライン開催となり移動費が発生しなかったため。
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