2023 Fiscal Year Research-status Report
19世紀における子ども観の転換点としての「子どもの死」― シュトルムを例として
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21K12968
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
藤原 美沙 京都女子大学, 文学部, 准教授 (20760044)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | シュトルム / 子どもの死 / 詩的リアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀ドイツ社会における「子どもの死」と文学との関連について、フリードリヒ・ゼングレはその大著『ビーダーマイヤー時代』において次のように記述している。「ビーダーマイヤー期には、家庭内に安寧を見出そうとする詩人たちにとって、子どもの死は不安と衝撃をもたらすものとして捉えられた。この辛苦を克服するためには、特別な、精神的かつ詩的な、そして宗教的な労苦が必須となった」。(Sengle, 1972)テオドア・シュトルムはまさにこの19世紀に活躍した作家であり、その作品においても「子どもの死」が物語の転機として描写されている。しかし、そこでは彼岸における子どもの安寧が願われるよりも、その死が誰によってもたらされたのか、という現世の問題点を浮上させることに主眼が置かれている。すなわち、子どもは大人の自我や生を受け入れる器として描かれると同時に、死後、他者の記憶の中で甦る対象ともなっているのである。 本年度はシュトルムの1876年の作品『水に沈む』を分析対象とし、日本シュトルム協会2023年研究会にて、大人の無意識の行為によってもたらされる「子どもの死」の意義を以下のように考察した。本作ではヨハネスとカタリーナという、身分違いゆえに結ばれることができなかった二人が犯した姦淫罪に対する罰を、彼らの子どもであるヨハネスが代わりに受け、犠牲となったと結論付けられている。ヨハネスはしかしこの罪を自分自身のものとみなし、絵画に謎めいた四文字C.P.A.S.(父の罪により水に沈む)と書き込んだ。幼子ヨハネスの死がC. P. A. S. という四文字とともに描かれる時、父と息子は一つの単位となり、二人のヨハネスはこの四文字によって、語り手の、そして読者の中でよみがえる。すなわち、悲劇性をもたらす幼子ヨハネスの死は、同時に父ヨハネスの社会的な死でもあり、それは後世での復活と審判を暗示するものなのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『水に沈む』をシュトルムが構想するきっかけとなった、ドイツのドレルスドルフの教会を訪れることができなかったため。当地の資料はインターネット上では公開されておらず、現地にて資料を収集する必要があり、全体の計画を一年延長することにした。しかし、11月に日本シュトルム協会研究会にて論文の骨子を発表し、識者たちから有益な意見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
夏期休暇を利用してシュトルムアーカイブならびにドレルスドルフの教会に赴き、関連資料を収集と検証を行う。前年度の発表を補強しつつ、論文投稿を予定している。国内外の各種研究会にも参加し、19世紀ドイツ文学について広く知見を得るよう努める。
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Causes of Carryover |
当初の海外渡航計画を大幅に変更する必要が生じたため。シュトルムアーカイブやドレルスドルフの教会を訪問することは、専門家の助言を仰ぐうえで欠かすことができない。国内で収集できる資料は大方入手済みであるため、渡航費と現地滞在費に研究費を使用する予定である。
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