2021 Fiscal Year Research-status Report
Empirical Study of Russian and Soviet Representation in Modern Japanese Literature: From the Viewpoint of Media and Publication
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21K12969
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松枝 佳奈 九州大学, 比較社会文化研究院, 講師 (60870061)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 比較文学 / 比較文化 / 日本近現代文学 / ロシア認識 / ロシア表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、日本近現代文学の諸作品に表れたロシア・ソ連認識およびその表象を、比較文学・比較文化史的観点から実証的に分析することを研究の目的とする本課題に沿って、当初の研究計画のとおり、明治末期から大正期までの文学者のロシア認識を、日露戦争(1904-1905)やロシアの革命運動、日本国内の初期社会主義運動、そして大逆事件(1910-1911)との関係から調査して分析した。 特に森鴎外が「無名氏」の筆名で文芸誌『スバル』に掲載した『椋鳥通信』とその後継誌『我等』に掲載した『水のあなたより』のすべての連載を調査し、取り上げられたロシア関係の項目を整理した資料を作成して、これらの著作に表れた鴎外のロシア事情紹介やロシア認識を分析した。その結果、先行研究で指摘されていた帝政ロシアの文学や文学作品に対する検閲の情報のみならず、ロシア皇帝の動静や、文学者、舞踊家や学術関係者らに対する思想・言論の弾圧、政治犯や革命家、社会主義者らの動向や処遇なども多く取り上げられていたことが明らかになった。そして複数の項目に、鴎外の大逆事件に対する密やかな抵抗が表れているという解釈を提示した。令和4年3月、以上を査読付論文として学術誌『鴎外』に投稿した。 さらに日露戦争期を含む明治期に発行された複数の雑誌(総合雑誌『太陽』『日本人』、画報誌『近事画報』)におけるロシア認識とロシア表象を調査し分析した。その結果、『太陽』では特に開戦前から開戦後半年程度の間、明らかな反露的な記述や表象が見られた一方、『日本人』や『近事画報』では必ずしも強い反露感情は表れず、むしろ革命を含むロシアの社会状況や文化の事情が多く伝えられたことが分かった。以上について令和3年8月のヨーロッパ日本研究協会(EAJS)第16回大会と同年12月の画報誌研究会で口頭発表を行い、令和4年度中に査読付き論文を投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度の計画どおり、森鴎外のロシア認識を『椋鳥通信』などを通じて調査、分析し、その成果を査読付き論文にまとめて投稿することができたため、おおむね順調に進展していると考える。 くわえて当初の計画にはなかった総合雑誌『太陽』『日本人』、画報誌『近事画報』に見る日露戦争期のロシア認識やロシア表象の調査と分析を行うことができ、国際学会と国内研究会での口頭発表という一定の成果に結びつけることができた。 当初、今年度の計画に入れていた東京大学附属総合図書館鴎外文庫や文京区立森鴎外記念館での一次資料の調査は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う移動の制限により、実施することができなかった。来年度に上記の調査を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず『椋鳥通信』『水のあなたより』をのぞく著作や一次資料、旧蔵書の調査から森鴎外のロシア認識や鴎外の著述に表れたロシア表象を分析し、同時代の社会・文化状況と照らし合わせながら、総体的に明らかにする。当初今年度の計画に入れていた東京大学附属総合図書館鴎外文庫や文京区立森鴎外記念館での一次資料の調査は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う移動の制限により、実施することができなかったため、改めて令和4年度に実施する予定である。 また当初の研究計画(特に石川啄木にかかわる課題)から変更し追加する研究課題として、令和4年度から、大正・昭和期に活動した小説家の夢野久作(1889-1936)の小説と著述物に表れたロシア認識とロシア表象の調査と分析を行う。すでに『夢野久作全集』や関連書籍、研究書の購入と調査を始めており、令和4年度ないしは令和5年度までに査読付論文を投稿するための準備を進めている。 くわえて令和4年度に、明治・大正期の日本におけるロシア文学の受容と理解の様相を、同時代のイギリスのロシア文学書やロシア人文学者によるロシア文学書の英訳版の受容とその影響から考察する研究を新たに実施することで、書籍や雑誌を通じた当時の日本の文学者のロシア認識をより広い観点から考察することとする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行による移動の制限のため、旅費を伴う学外での文献・資料調査が実施できなかった。その結果、次年度使用額が生じた。これは翌年度分の学外での文献・資料調査のための旅費や文献複写代などとして使用する予定である。
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