2021 Fiscal Year Research-status Report
明治後期から大正初期の少女雑誌におけるフランス文学・フランス文化の受容
Project/Area Number |
21K12971
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡辺 貴規子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 講師 (50829075)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 少女雑誌 / 少女小説 / フランス文学 / フランス文化 / 児童文学 / 翻訳 / エクトール・マロ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、明治後期の少女雑誌におけるジャンヌ・ダルク像の再検討、翻訳少女小説『雛燕』(1917年)の研究、少女雑誌『少女界』『新少女』掲載のフランス関連記事の調査、という三点を中心に研究を進めた。研究成果について国内で1本の研究発表を行い、令和4年度公開予定の1本の論文を作成した。 まず、令和3年度に新たに収集した『少女界』『新少女』の資料も参照しつつ、明治30年代以降の少女向けの読み物に掲載されたジャンヌ・ダルクの伝記を再検討し、①具体的な美の描写、②弱さと強さの共存、③「家の娘」としての葛藤、というジャンヌ像の特徴、児童向けの伝記におけるヒロイン像の変容を明らかにした。研究成果について『言語文化の比較と交流』(大阪大学大学院言語文化研究科言語文化共同研究プロジェクト)において、令和4年度にリポジトリ公開予定の論文を執筆した。 次に、フランスの作家エクトール・マロ原作、五来素川訳『雛燕』(原題En famille、一般的には『家なき娘』の邦題で知られる)について、原典と翻訳の比較、掲載誌『新少女』の特徴および五来の女性観の考察を行い、翻訳の様相の特徴を分析した。主人公の少女が自らの意志の力で自立的な女性へと成長を遂げるこの小説は、ヨーロッパの文学作品を積極的に掲載し、女性が主体的に生きることを推奨した進歩的な少女雑誌『新少女』において人気を博した。しかし翻訳者の五来は保守的な女性観を持ち、ロビンソナードの場面の省略等、主人公の少女の行動、意志、自立性に制限を加えるような翻訳を行った。この研究成果について日本児童文学学会第60回研究大会で研究発表を行った。 以上の活動と並行し、日本初の少女雑誌『少女界』(1901年創刊)、「雛燕」が連載された『新少女』(1915年創刊)を中心に資料調査・収集を行い、フランスの小説の翻訳、女性の伝記など新たなフランス関係の記事を見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大阪府立中央図書館国際児童文学館、日本近代文学館、国立国会図書館などの専門資料所蔵館で、明治後期・大正初期の少女雑誌に掲載されたフランス関係の記事の調査、収集、分析はおおむね順調に進んでいる。当初の研究実施計画では、一年目の令和3年度に、『少女界』、『少女世界』(1906年創刊)を中心にフランス関係の記事の調査を行う予定であったが、後者の代わりに「雛燕」が連載された『新少女』の調査を優先させた。『少女界』と『新少女』については、国内の資料館に所蔵される閲覧可能な巻号の調査はほとんど終了した。『少女世界』の調査にもすでに着手しており、今後これを継続する予定である。 そして、本研究では『雛燕』(1917年)と「シベリアの少女」(1916年)という、フランスの小説を原典とする二つの翻訳少女小説について、原典と比較して翻訳の様相を明らかにし、主人公がどのような「少女」として表象されたかを検討することを主要な目的の一つとする。今年度は『雛燕』を検討し、研究成果については、年度中に国内学会での研究発表も行うことができた。また、次年度における論文の公表を目指している。 最後に、明治後期の少女雑誌、少女向け読み物におけるジャンヌ・ダルクの表象について、新資料も参照したうえで再検討し、論文を作成できた。この研究成果では、ジャンヌ・ダルク像と当時の少女雑誌が提示する「少女らしさ」との関係、児童向けの伝記におけるヒロイン像の変遷についても考察できた。この知見は、今後、少女雑誌に掲載されたフランスの女性の伝記の読解を継続していく上でも役立つと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は次の四点を具体的な課題とする。 第一に、明治期の主要な少女雑誌のひとつである『少女世界』の1912年までの巻号を中心に、明治後期の少女雑誌におけるフランス関係の記事の調査・収集・分析を完成させること、そして後発誌の『少女の友』、『少女』、『少女画報』の1918年までの巻号を中心に、大正初期の少女雑誌におけるフランス関係の記事の調査・収集・分析を進めることである。 第二に、『雛燕』の翻訳の様相について年度内に論文を作成し、公表することである。 第三に、『少女』に1916年に連載された野村壽恵子訳「シベリアの少女」(原題:La jeune Siberienne, 1825)について原典との比較により翻訳の様相を明らかにすることである。 第四に、ジャンヌ・ダルク以外のフランスの女性の伝記の掲載がこれまでの少女雑誌の調査で複数見出されたため、まずはそれらを整理し、一覧にまとめる。そのうえで、それらの記事の読解を進め、女性被伝者の表象の特徴、変容について考察する。 第三または第四の課題の研究成果について、2022年秋に開催予定の日本児童文学学会第61回研究大会において研究発表を行うことを目標とする。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、旅費と複写費の支出が予定より少なかったことである。つまり、2021年8月または9月に、東京へ3泊4日での国内出張を行い、日本近代文学館、国会図書館東京本館、国際子ども図書館などの専門資料所蔵館で資料調査・資料収集を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の拡大により発出された緊急事態措置のただ中にあったため、移動を自粛し当該の国内出張を断念した。次年度も国内出張において収集すべき資料が多くあるため、国内出張に係る旅費、資料収集に伴い発生する資料複写費に使用する予定である。次年度は状況が許す限り、国内出張と資料収集を積極的に行おうと考えている。
|
Research Products
(1 results)