2022 Fiscal Year Research-status Report
明治後期から大正初期の少女雑誌におけるフランス文学・フランス文化の受容
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21K12971
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡辺 貴規子 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 准教授 (50829075)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 少女小説 / 少女雑誌 / フランス文学 / フランス文化 / 児童文学 / 翻訳 / ジャンヌ・ダルク / エクトール・マロ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、フランスの小説を原典とする大正期の二つの翻訳少女小説『雛燕』(エクトール・マロ原作、五来素川訳、1917年)、『シベリアの少女』(グザヴィエ・ド・メーストル原作、野村壽恵子訳、1916年)について研究を進めた。 研究成果については、令和3年度に取りまとめたジャンヌ・ダルクの少女向け伝記研究に関する論文を1本公開し、令和4年度の研究に関し、1本の論文の作成準備、国内での1本の研究発表を行った。 令和3年度に引き続き『雛燕』(原題:En famille, 1893)について、原典と翻訳の比較、掲載誌『新少女』の特徴、翻訳者・五来素川の女性観に関し、新たな資料を参照しつつ取りまとめ、令和5年度公開予定の論文を準備した。 『シベリアの少女』(原題:La Jeune Siberienne, 1825)に関し、まずは原典を精読し、成立背景、流布の状況を調査した。主人公プラスコヴィ・ロプロフは実在の少女で、この小説は19世紀初頭の実話をもとに成立した。フランスでは、コタン夫人とメーストルにより、それぞれ1806年と1825年に二度も小説となり、その後複数の児童用の道徳読本に掲載された。日本でも、明治20年代から戦後まで「孝女プラスコヴィ」の逸話が紹介され続けた。 先行研究と書誌調査を基に、19世紀にフランスで刊行された16種の小説・戯曲・記事をリスト化し、同時に日本で1970年代までに出版された24種の単行本、記事を収集、読解した。その結果、野村がこの小説を翻訳した経緯、底本のフランス語の原書の版が判明した。翻訳の様相に関し、原文の間接話法の多くが、翻訳では直接話法で雄弁に訳され、地の文でも加筆されつつ翻訳された。控えめな性格ながらも強い孝心を持つ、けなげで美しい少女像が、翻訳でより鮮明に描出されたことが判明した。以上について、日本児童文学学会第61回研究大会で研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度は、『雛燕』(1917年)と『シベリアの少女』(1916年)という、フランスの小説を原典とする二つの翻訳少女小説について、原典と比較して翻訳の様相を明らかにし、主人公がどのような「少女」として表象されたかを検討するという主要な目的は達成できた。前者については、論文作成準備を進めることができ、後者の研究成果についても、年度内に国内学会での研究発表も行うことができた。また、令和5年度における論文の公表も目指している。 しかしながら、令和4年度に本格的に開始した『シベリアの少女』の研究において、原典に関する先行研究の調査、そして先行研究と書誌調査に基づく、日仏両国における当該作品の流布の状況に関する調査、及びそれらの文献の精読について、予想以上に時間がかかった。その原因として、『シベリアの少女』に関する先行研究がきわめて少なく、それを見出し、文献を入手するのが困難であったこと、当初予測した以上に、この小説とその下敷きとなったプラスコヴィ・ロプロフの逸話が日仏両国において流布していたことが挙げられる。 そのため、令和4年度の目標としていた、『少女世界』など、明治後期の少女雑誌におけるフランス関係の記事の調査・収集・分析の完成、そして後発誌の『少女の友』、『少女』、『少女画報』など、大正初期の少女雑誌におけるフランス関係の記事の調査・収集・分析については満足に遂行することができなかった。同時に、これらの少女雑誌に見出される可能性が高い、ジャンヌ・ダルク以外のフランスの女性の伝記についても調査が進められていない。令和5年度は少女雑誌に掲載された、フランス関係の記事の調査・収集・分析についても鋭意取り組みたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は次の四点を具体的な課題・目標とする。 第一に、令和4年度に満足に取組めなかった、少女雑誌に関する調査に取り組む。具体的には、明治期の主要な少女雑誌、『少女世界』の1912年までの巻号を中心に、明治後期の少女雑誌におけるフランス関係の記事の調査・収集・分析を完成させる。そして、後発誌の『少女の友』、『少女』、『少女画報』の1918年までの巻号を中心に、大正初期の少女雑誌におけるフランス関係の記事の調査・収集・分析を行う。 第二に、『雛燕』の翻訳の様相について論文を公表する。 第三に、『シベリアの少女』の翻訳の様相について、研究成果を取りまとめ、論文を作成する。 第四に、ジャンヌ・ダルク以外のフランスの女性の伝記について、少女雑誌に掲載された記事の読解を進め、女性被伝者の表象の特徴、変容について考察する。 第一または第四の課題の研究成果について、2023年秋に開催予定の日本児童文学学会第62回研究大会において研究発表を行うことを目標とする。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」欄で記述したように、明治後期及び大正初期の少女雑誌に掲載されるフランス関係の記事の収集・分析の進捗が遅れている。そのため、大阪府立中央図書館国際児童文学館への日帰り出張のための旅費、そして少女雑誌の記事収集のための文献複写費の支出が予定よりも少なかった。令和5年度において、令和4年度には満足に行えなかった大阪府立中央図書館国際児童文学館への日帰り出張を行い、少女雑誌の記事収集に努めたいと考えている。
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Research Products
(2 results)