2022 Fiscal Year Research-status Report
Empirical studies of discourse effects of natural languages
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21K12985
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
平山 仁美 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師 (40848602)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 談話 / 重複 / 日本手話 / 手話 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は日本手話における名詞の「重複」についての研究成果についてのポスター発表を行った。「重複」という現象自体は音声言語・手話言語の両方で観察されているが、手話言語においては特に多く観察され盛んに分析されている。アメリカ手話を中心になされた先行研究では、重複は強調(emphasis)に使われる例や、焦点(focus)として使われる例が紹介されている。これらは文の中で主にしばしば談話において重要性が高い新情報を標示する際に使われる。しかしながら、重複がすべていわゆる強調や焦点の標示に使われるわけではないことが、近年ロシア手話やオランダ手話の研究から明らかになっている。これらの手話では、重複は談話の流れにおいて重要な要素の顕著さ(saliency)を上げる前景化(foregrounding)という操作に使われ、逆に重複された要素に挟まれた要素の顕著さを下げる働き(背景化: backgrounding) があると言われている。 このように欧米の手話研究において重複は重要なトピックとなっているものの、日本手話の重複については具体的な研究が存在していなかった。今回のポスター発表では、特に名詞のみの重複に注目して分析を行った。日本手話においては「私の趣味はX,Y,Zです」などと複数要素を例示する場合に、複数要素を含む上位要素である名詞(ここでは「趣味」)を重複して表出することが好まれる。聞き取り調査から、このような例で観察される重複は上記で報告されている重複の用法どれでも説明が難しいことが判明した。つまり、この重複では「趣味」が強調されているわけでも、新情報というわけでも、前景化を受けているわけでもない。重複を受けた2つの名詞が完全なコピーではないという観察から、統語的には左方転移に似た操作であり、2つの名詞のうちひとつは代名詞のような働きをしている可能性を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
音声言語だけでなく視覚言語という今までに研究していなかった種類の言語の研究を始めたため、データをまとめ分析するのに想定より時間と労力を要している。また、この影響で音声言語の戦略についての研究が予定より進んでいないために「遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度に得られた重複のデータについて未だ分析が不十分な面があるので、より妥当な説明を与えられるよう分析を精緻化し学会発表などを通してより多くのフィードバックを得た後に、論文の形でまとめていきたい。また、音声言語の談話効果についての研究についてもコロナ禍で滞っていたデータの収集を再開しながらまとめていきたい。
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Causes of Carryover |
昨年度に引き続き新型コロナウイルスの影響が続き、旅費が当初の想定より必要なかったため。
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