2022 Fiscal Year Research-status Report
ベートーヴェンの「筆談帳」におけるドイツ語に関する歴史語用論的研究
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21K12987
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 恵 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (50820677)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ドイツ語史 / 歴史社会言語学 / 歴史語用論 / 話しことば / 言語の標準化 / 言語意識 / 言語規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で言語資料として使用しているベートーヴェンの筆談帳には、バイエルン・オーストリア方言圏のウィーンを舞台に、ベートーヴェンおよびベートーヴェンの友人、知人、ベートーヴェンの家に出入りしていた家政婦や写譜係(コピスト)等が書き残した会話が書き残されている。筆談帳に登場する人物別にそれぞれの言語のデジタルデータ化を進めながら、特に今年度は、社会言語学的変数(教養の程度や職業などの社会的属性)によってどのような言語使用の差が見られるかに注目して質的分析を行なった。例えば、家政婦の言語使用に注目してみると、綴りは正書法に従っておらず、口で言うとおりに書かれているのに近い。一方、学校教師や新聞記者には、関係代名詞として文語形のwelcherを頻繁に用い、話しことばでは落ちる名詞与格語尾のe音(例えば ausser dem Hause)を頻繁に用いている。この傾向は、ベートーヴェンの甥カールが綴るドイツ語にも確認できる。しかしながら、教養が高いと考えられる人物であっても、「会話」のなかにはやはり上部ドイツ語的な異形も散見され、さらには話し手(書き手)本人が、方言的な異形を標準的な異形に自ら修正している箇所も確認された。このことから、筆談帳を話しことばと書きことばの混合態と捉えるべきことが示唆される。今後は、音韻、形態、文法、語彙の点で両者にはどのような違いが見られるか、詳細に分析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「誰が誰に対して」、「どのような場面・状況で」、「どのような用件(意図)で」なされた会話であるのか、話し手別のデータ作成を順調に進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、教養の程度や職業などの社会的属性、さらには話し手と聞き手の親疎関係や発話の意図といった語用論的変数によって、音韻、形態、文法、語彙の点でどのような言語使用の違いが認められるか、詳細に分析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度に予定していたデータ作成を2023年度に延期したため。2023年度には謝金を利用して、ベートーヴェンの会話コーパスを完成させる予定である。
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[Book] Deutscher Sprachgebrauch im 18. Jahrhundert: Sprachmentalitaet, Sprachwirklichkeit, Sprachreichtum.2022
Author(s)
Anna D. Havinga, Bettina Lindner-Bornemann, Carolin Wiedmann, Anita Auer, Jan Seifert, Alexander Werth, Said Sahel, Evi Van Damme, Ludovic De Cuypere, Klaas Willems, Simon Pickl, Konstantin Niehaus, Paul Roessler, Claudia Resch, Kerstin Roth, Megumi Sato 他
Total Pages
374
Publisher
Universitaetsverlag WINTER Heidelberg
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