2021 Fiscal Year Research-status Report
Exploring the phylogenetic position of Japanese dialects in contact areas
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21K12993
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中澤 光平 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (90824805)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日生方言 / 壱岐方言 / 与那国方言 / アクセント / 命令・禁止表現 / 音変化 / 文法変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は(1)現地調査の実施、(2)アクセント資料の公開、(3)学会・研究会での発表、(4)その他資料・論文の公開、を行った。以下、順に詳しく述べる。 (1)今年度は備前市日生、長崎県壱岐市と沖縄県与那国島での現地調査を実施した。備前市日生では俚言のアクセントを中心に調査した。長崎県壱岐市では動詞の活用形を中心に調査した。沖縄県与那国島では命令・禁止表現の調査を行った。(2)備前市日生について、調査済みのデータと併せて1000語以上のアクセント資料を論文として公開した。(3)単独あるいは共同で、日琉諸語全体(語彙、不定表現)と与那国方言(現在の与那国方言の諸変化、撥音化と促音化)についての研究発表を行った。(4)単独あるいは共同で、日琉諸語全体(子音体系、格体系)と与那国方言(命令・禁止表現)についての資料・論文を執筆した。 (1)(2)について、日生方言の近隣の寒河方言は2拍名詞の類別体系(アクセントの合流の仕方)が1/245/3と特異なことで知られるが、日生方言は1/245/3と1/23/45の中間で、本来はどちらの体系かが問題となる。それを明らかにする手掛かりとなる、長い語を含む今回のアクセント資料は、本研究課題で中心となる、接触地域のアクセント資料として大変重要である。(3)について、日琉諸語の動物語彙、穀物語彙の分布、「何」「誰」などの疑問詞による不定表現のアクセントの通時的変化のほか、与那国方言に生じた最近の文法変化、およびpune>Nni「舟」やputa>Ta「蓋」のような撥音化・促音化(喉頭音化)の音韻条件について論じ、他の方言での関連する現象との関係についても考察を進めた。(4)について、日琉諸語の子音体系の分布、直格(共通語のガ格とヲ格に対応)の標示の分布と通時的考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は(1)現地調査、(2)アクセント資料の公開、(3)学会・研究会での発表、(4)その他資料・論文の公開、を行った。 (1)の調査は新型コロナウイルスの状況が落ち着き東京での緊急事態宣言が解除された2021年10月以降に実施したため、予定よりは少なかったものの、ある程度十分な調査が行えた。(2)について、備前市日生という異なるアクセント類別体系の接触地域のアクセント資料を公開することができ、日生方言のアクセント上の特徴の一部(頭高型、重起伏調の分布)を明らかにした上に、本研究課題を大きく進めることができた。(3)(4)について、接触地域を含む日琉諸語全体について、単独発表、共同発表を多く行い、本研究課題が取り組む、日本語諸方言(日琉諸語)の系統解明を明らかにするために必要な、借用語と伝承語とを峻別する基準と共有改新(方言間で共通の祖語から継承し共有されている言語変化)の特定の足掛かりが得られた。以上より、現地調査は予定より遅れているものの、資料の分析、公開を代わりに進めることができたため、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、(1)言語資料の収集、(2)収集したデータの分類、(3)分類に従った接触地域の系統関係の解明、を今後も進めていく。現地調査が予定よりもやや遅れているため、今年度は特に現地調査に重点を置いた研究計画を立てる。研究計画の(2)と(3)は(1)が前提となるため、データの収集を計画的に行う必要がある。 研究代表者の所属機関や身分が応募時と変わっていることもあり、研究環境が大きく異なるため、新型コロナウイルスの感染状況と併せて予定通り現地調査が進められるか未知の部分もあるが、去年度までに培った遠隔調査のノウハウなどを活かしつつデータの収集に努める。また、去年度調査を実施した長崎県壱岐市と沖縄県与那国島の資料公開(学会・研究会発表と論文化)の準備を進める。
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