2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K13020
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
山口 響史 大阪大谷大学, 教育学部, 講師 (50823811)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 受害 / 受益 / 授受動詞 / テクレル / テモラウ / 近世後期 / 上方語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果は主に次の点である。 1、テクレルの歴史解明に取り組み、以下の1-1、1-2の解明を行った。 1-1、本動詞クレルも含め、テクレルが現代の様相に至るまでの様相を記述・考察した。元来、上位者から下位者へ与えることを表わしていたクレルが与え手・受け手の身分を問わず受け取ることを表わすようになる過程を中古~近世後期にかけて調査を行った。この調査の中で、テクレルが現代と同じく受益を表わすようになるのは、近世前期頃であることを観察・考察した。また、受益の用法の成立には、依頼用法の頻用が背景にあると結論づけた。 1-2、近世後期に成立する非恩恵用法(例、こんなときに、おれがなんぼあせつてはたらいて見ても、このやうに寐てくれてハ、とてもあたまが上らぬ。(諺臍の宿替))の成立過程をテクレルの発達と共に記述した。1-1の観察結果とともに記述し、テクレルの受益形式化が契機となったと結論づけた。 2、近世後期上方語におけるテクレル・テモラウの非恩恵用法の違いの解明 研究代表者のこれまでの研究にて、テクレル・テモラウの非恩恵用法の成立過程を調査してきた。それをふまえ、近世後期上方語におけるテクレル・テモラウの非恩恵用法の違いについて観察・考察を行った。与え手・受け手・聞き手・話し手の関係を調査したところ、テモラウの非恩恵用法は専ら与え手である聞き手が話者である受け手と同じ場にいる中で使用されていたが、テクレルの非恩恵用法は与え手が話者である受け手と同じ場にいない場合にも使用されることがわかった。また、テモラウの非恩恵用法は丁寧語を伴って使用されることがあるものの、テクレルの非恩恵用法は丁寧語を伴うことはないことがわかった。これらの成果は受益・受害という観点で日本語のヴォイス史を捉えることの重要性を示唆すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画通り、テクレルの非恩恵用法の成立過程を記述し、これまでの研究と結びつけながら受益・受害表現の歴史を考察した。一方で、テクレルの敬語形であるテクダサルでは、非恩恵用法の用例があまり得られないこともわかった。結果的にテクダサルの記述は進んでいないが、研究の進捗状況に大きな影響はない。 次年度では、テクルの歴史を扱う予定である。テクルの調査準備については、大きな支障は出ていない。 以上より、(2)おおむね順調に進展している。と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画通り、テクルの歴史についてテクレルの歴史と対照させつつ記述を進める。テクルの歴史について、補助動詞化から受害の用法の獲得までに重要なのは中世末期~近代にかけてであることがわかっている。とりわけ、先行研究では調査の不十分な近世後期~近代を中心に東西差を考慮しつつ記述を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、予定していた出張、資料調査が行えなかったことによる。
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Research Products
(2 results)