2022 Fiscal Year Research-status Report
外国語学習における発音の協働的学習法の開発――周辺的参加者の活用――
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21K13073
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
大山 大樹 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (70805564)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | グループワーク / 参加しなくてもよい機会 / 発音学習 / 相互行為分析 / 教え合い |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、発音の協働的学習法の開発を目的とする。具体的には、リフレクションを促す仕掛けとして、活動の進行に関与せずにある程度自由に行動できる「参加しなくてもよい機会」を組み込んだグループワークのデザインを提案するものであった。本年度は、引き続きデータ収集とその分析をおこない、リフレクションの実態の一端を明らかにした。くわえて、デザインの問題点も明らかになり、それを克服した新たな学習方法の可能性を見出した。 まず、「参加しなくてもよい機会」の教育的効果とその限界が明らかになった。具体的には、発音や会話の練習のなかで、自身やほかのグループのメンバーの発話をきっかけに、リフレクションを深める効果があらためて確認された。一方、それを利用したリフレクションは、基本的にひとり一人のなかだけにとどまり、その内容がグループ全体に還元されることは極めて少なかった。そして、このことは、リフレクションが周辺的におこなわれるという、グループワークのデザイン自体の構造に由来していることが分かった。 次に、この問題を克服すべく、リフレクションを主たる目的とした発音の協働的学習法を開発した。「インフォメーション・ギャップを前提にしない発音の教え合い活動」と呼びうるこの方法は、ジグソーに代表される従来の教え合い活動とは異なり、既習事項を教え合うという特徴をもつ。データ収集と分析の結果、これまでの発音や会話の練習のなかでは見られなかった発音に関する深い理解や疑問、そしてグループ全体のリフレクションが観察された。 以上の分析結果は、グループワークのデザインの仕方に新たな知見を与えるものである。第一に、参加しなくてもよい機会はリフレクションの促進という教育的価値を持つ。第二に、グループ全体のリフレクションは、その内容を開示することを主たる目的とする環境を用意すれば可能であり、深い理解へと導くことが可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に引き続き、データ収集とその分析をおこなった。具体的には、研究計画に沿って、さまざまな課題(語彙、会話文、論説文など)の発音練習および会話練習のグループワークをビデオカメラにより録画記録し、分析の材料となるトランスクリプトを作成した。そして、研究実績の概要にも記載したとおり、相互行為分析をもちいてリフレクションの実態を明らかにすることで、提案する学習方法の実態の一端、およびその有効性を部分的にではあるが示すことができた。くわえて、想定していた学習方法の課題が浮かび上がり、それを克服するかたちで、新たな学習方法を考案するに至り、その一端も研究発表というかたちで発信した。 一方、初年度と同じく、コロナウイルスの感染が続くなかで、対面式の授業が困難な場合が少なくなかった。そのため、予定していた継続的なデータ収集ができず、通時的な変化を調べるためのデータを集めることができなかった。また、対面式の授業であってもマスクを着用し、十分な距離をとってのグループワークとなったため、口の動きが観察できず、音声の録音の質が十分ではないデータもあった。その結果、データ分析に予定していた以上の時間を要し、研究発表というかたちでは成果を発信できた一方、論文としてまとめるには至らなかった。このように、可能な限りデータの収集はおこなったものの、成果の発信を中心に問題が無いわけではなく、「やや遅れている」との評価をするに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、データの収集を引き続きおこなう。コロナウイルスの感染状況から、次年度は基本的に対面式の授業を実施できるようになると考えられる。そのため、感染対策を十分におこなったうえで、通時的な比較のための継続的なデータ収集をおこなう。 次に、「参加しなくてもよい機会」を組み込んだグループワークのリフレクションの実態を明らかにする。いくつかの構造的な限界が明らかになったが、この環境下におけるリフレクションのありようは多様であり、その実態は十分に明らかではない。引き続き、相互行為分析をもちいてその詳細を記述する。 そして、「参加しなくてもよい機会」の構造的な限界を克服すべく新たに見出された「インフォメーション・ギャップを前提にしない教え合い活動」の開発と分析を進める。これは、当初のデザインの問題点を克服するだけではなく、ジグソーを代表した従来の教え合い活動が持つ問題点(時間がかかる、教師役の負担が大きい、生徒役が聞くだけになる等)をも克服する可能性を有すると考えられる。こちらの学習方法についても分析をおこなう。 以上の観点から研究を進め、研究成果の発信を増やし、研究の進捗に合わせて教育学会などで順次積極的に成果の公表をおこなっていく。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの感染拡大により、データ収集とその分析が予定通り進まなかったため。次年度は、データ収集時の問題点を解決するための機材の購入、および研究成果の発表の経費として使用する予定である。
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