2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K13127
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
畑野 吉則 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, アソシエイトフェロー (50835478)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中国古代史 / 簡牘学 / 古文書学 / 筆跡 / 文書行政 / 里耶秦簡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来の中国古代簡牘研究では客観的考察の対象とすることができなかった「筆跡」に対して、出土簡牘資料に遺された実際の筆跡データを数値化する分析手法を導入し、文書・文字を媒介とした行政運用の仕組みについて、新たな角度から検証を加えるものである。具体的には、第1に、中国古代簡牘に遺された筆跡を客観的に分析する手法を考案し、数値的に示すこと。第2に、行政文書に遺された筆跡の平均値から、当時の標準的な筆跡の数値を算定すること、そして標準的な筆跡がどの程度普及していたかを数量的に評価することを目的とする。 そこで令和3年度は、A)中国簡牘における筆跡の観察フォーマット策定、B)秦代簡牘における筆跡データの作成と分析、の2項目を遂行した。 A):年度前半に、日本木簡及び書道史研究者と共同で、中国簡牘の、特に行政文書に遺された筆跡を観察することに特化した観察フォーマットを策定した。 B):A)の観察フォーマットを利用し、『里耶秦簡博物館藏秦簡』に掲載されている文字1,100件の筆跡データを作成した。なお、観察対象の文字は、公文書・帳簿・記録といった様々な属性の簡牘から抽出した。次年度以降は、C)各属性における筆跡データの標準的な数値を算定する必要がある。 当初計画に加え、新たにD)里耶秦簡の複合文書における書写者による筆跡の差異―個癖―を数値的に示す手法の開発に着手した。試験的に、里耶秦簡8-755~759冊書について、8-755簡と759簡の筆跡を比較分析したところ、両者に明確な数値上の差異が確認できた。これまで中国簡牘の筆跡・個癖の分析は、研究者の主観に基づく属人的な手法であったと言わざるを得ないが、本研究の手法が確立すれば、筆跡の個癖が客観的かつ二次的に利用・検証が可能な研究データとしての活用、そして文書内容・構造理解のための論拠となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A)中国簡牘における筆跡の観察フォーマット策定については、当初計画通り完了した。また、B)秦代簡牘における筆跡データの作成と分析については、今年度の目標数値に達しなかったが、次年度以降に分析する文字データの整備はすでに終えており、最終年度までに目標数量の分析が完了する見込みである。 新たに着手した、D)筆跡の個癖を数値的に示す研究手法が、里耶秦簡の複合文書において適用できた点は、今後の研究展開において大きな成果だと考える。本研究手法については、古文書学・書道史・画像認識学等の研究者と研究打ち合わせを複数回実施し、次年度以降の研究の効率化及びデータ精度の向上に向けた協議を着実に積み重ねている。 一方で、当初計画では、上記研究成果を国内外の学会・シンポジウムで公表する予定であったが、作成した筆跡データの数量不足や、個癖比較の実例不足といった点により、公表には至らなかった。次年度以降は、筆跡データの作成や個癖比較の実例集成に注力し、早期に研究成果を公表する必要があると考える。 以上のとおり、研究内容については当初計画以上に進展しているが、成果報告の点ではやや遅れているため、研究全体としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
B)秦代簡牘における筆跡データの作成と分析については、研究協力者の協力を得るなどして、筆跡データの作成を加速させる。そして、最終年度前半にC)各属性における筆跡データの標準的な数値を算定する段階に進める必要がある。なお、筆跡データの数値を評価するには、同時代・別地域の資料群と比較する必要があるため、年度後半には、追加で一定数量の秦代簡牘の筆跡データを作成し、比較をおこなうのが望ましいと考える。 新たに着手したD)筆跡の個癖を数値的に示す研究については、里耶秦簡の複合文書の事例を集成し、個癖を比較することで、当時の文書処理のルールについて検討を加える。なお、本成果は、中国史だけでなく日本史・古文書学と共有できる内容であると考えるため、中国史以外の学会・研究会等でも研究報告をおこない、多角的な意見をいただくことが望ましいと考える。 このほかに、歴史学・書道史・国語学・古文書学の研究者と研究打ち合わせを随時実施し、研究成果の共有と検討及び研究計画のブラッシュアップをおこなう。
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Causes of Carryover |
令和4年3月に計画していた研究会が、オミクロン株の爆発的感染拡大の影響を踏まえ中止したため、次年度使用が生じた。 次年度は、当初計画のとおり研究会を実施し、研究協力者を招聘するための旅費として使用する計画である。
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