2021 Fiscal Year Research-status Report
日本近世の河川管理システムにおける絵図の機能の解明
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21K13163
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Research Institution | Lake Biwa Museum |
Principal Investigator |
島本 多敬 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 学芸員 (00822743)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 淀川流域 / 出版災害図 / 普請と絵図 / 土砂留 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、①大坂における一枚摺を含む絵図の出版状況を把握する目的で、香川県立図書館所蔵の寺社参詣関係絵図、京都産業大学図書館所蔵の出版水害図などを調査した。また、②淀川流域の近世絵図を集成する研究グループと共同で、淀川流域の主要な河川における普請計画や水害の状況などを描いた手描きの絵図の所在を調査した。 ①の調査の結果、大坂や地方都市における一枚摺の出版状況やこれに関与する板元の事例を増やすことができた。それら事例は、近世都市における絵図の出版主体であり、水害や土木事業を含む地理情報の流通にも関与した諸板元が、近世中・後期の出版体制において構造的にどのような位置付けにあったのかを知る手がかりとなりうるものである。 ②の調査の結果、淀川本流および木津川・宇治川(瀬田川)・桂川の主要な手描き河川絵図の記載内容や表現例を広域的に把握することができ、次年度以後、各地に所在する資料の作製主体・目的、調査対象とすべき資料群やその伝来について分析する際の指標が得られた。特に、京都産業大学図書館所蔵の絵図については、原本調査を実施して記載情報や作製主体について分析し、近世の土砂留制度に関係する地図帳の詳細な情報を得ることができた。 ①に関する成果は、これまで蓄積してきた近世大坂における出版都市図・災害図の書誌情報データと合わせて分析中であり、次年度以降にとりまとめて公表できるよう準備を進めている。②に関する成果として、河川管理システムの前提をなす幕府支配機構による統治の地理的特質に関する考察の一部を、書評において公表した。また、手描きの瀬田川絵図、土砂留絵図の作製目的の分析や、19世紀初頭に出版された淀川水害図2種の比較とその歴史的位置付けについて、専門向け書籍に収録された論考において公表した。このうち、手描きの瀬田川絵図の分析結果は、所属機関における展示によって一般向けに成果を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
出版地図の調査は、新型コロナウィルス感染症の拡大により国内の資料所蔵機関への出張ができず、当初想定していた予定に比べてやや遅れ気味である。 一方、淀川流域の絵図を調査する研究グループと共同して調査ができたことから、本来は計画2年目に予定していた、淀川流域を中心とする河川管理に関わる手描き絵図の調査が大幅に進んだ。また、それら絵図に基づく当時の治水・砂防についての調査成果を、今年度中に発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は計画2年目を中心に、遅れ気味であった出版河川絵図・災害図の諸本調査を引き続きおこなう。そしてそれら資料の分析結果をとりまとめ、公表する準備を進める。 淀川流域の手描き絵図の調査は今年度に一定程度進められたため、今後はその成果を踏まえ、計画3年目以降に進める予定の、河川管理関係の記録類と比較対照できる資料群を選定し、一部資料の予備的調査を実施する。また、淀川流域と比較対照できる地域の資料についても、治水史・砂防史関係文献をもとに、資料の所在などを把握していく。
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Remarks |
滋賀県立琵琶湖博物館、第10回学芸員のこだわり展示「描かれた瀬田川の砂州」(会期:2022年3月15日~5月22日、場所:滋賀県立琵琶湖博物館B展示室)で、手描きの「瀬田川筋絵図」の年代および表現内容に関する分析結果を展示。
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Research Products
(2 results)