2022 Fiscal Year Research-status Report
スコットランドにおけるコミュニティ等の土地先買権に関する法理論研究
Project/Area Number |
21K13179
|
Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
久米 一世 中部大学, 経営情報学部, 准教授 (60707561)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 法社会学 / 所有権 / コミュニティ / スコットランド / 土地法 |
Outline of Annual Research Achievements |
土地という基本的かつ限られた資源をいかにして持続可能な形で維持管理していくのかという問題に対し、近年、スコットランドでは近代以降の土地所有権が有する絶対性にまで踏み込んだ土地関連法改革がなされた。特に2015年のコミュニティ権限付与法は、適切な管理がなされていない土地等について、所有権者の売却意思や同意の有無にかかわらず、当該土地の購入を希望するコミュニティに対して先買権を与えるという、これまでの所有権法理論の解釈枠組みを根底から変更するものであった。 本研究の主たる目的は、スコットランドにおいてコミュニティに対して付与されている土地先買権に関して、法社会学的な手法による歴史分析および実態調査を行った上で、その法的正当性を担保する法理論についての分析を行うことである。この私的所有権の絶対不可侵という近代以降の大原則が、スコットランドに限定されるとはいえ根本的に変更されたという事実は、法と現代社会を捉える上で注目されるべき法現象である。 2022年度は本研究計画の二年目に該当し、当初の予定通り、スコットランドのルイス島においてコミュニティ・オーナーシップによる土地管理主体へのヒアリング調査を実施した。また、2021年度の成果については、2022年7月にポルトガルのリスボンで開催された法社会学国際会議リスボン大会(LSA Global Meeting on Law and Society)において「A Study on Community Ownership in Scotland」と題する報告を行った。他には論文として、比較法学56巻1号(2022年)に、「スコットランドのコミュニティ・オーナーシップに関する法的論点と現状」を公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コロナの影響により、2022年度当初は、海外での現地調査の進捗が見通せない状況であったが、夏期には想定していたよりも早期に渡航の調整が付いたため、計画以上に十分なヒアリングおよび文献等の情報収集を実施することが出来た。特に、スコットランドのルイス島で行った、The Pairc Trustの関係者へのヒアリングが有益であった。The Pairc Trustは、ルイス島に風力発電施設が誘致することに反対する地域の人々が、地主らに対する訴訟の末にコミュニティ・オーナーシップを勝ち取ったという珍しいケースであり、近年のスコットランドにおける土地関連法改革が地域コミュニティにどのような権限を与えたのかが具体的に把握できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である2023年度は、現地調査で得られた知見を精査すると同時に、検討対象とする資料を法学に隣接する学際的な領域にまで拡大する。特に農業経済学、農村社会学等が重要である。なお、研究成果を学会報告や論文の投稿等を通じて随時発表していく。国内外の研究者との議論を通じて、より精緻な法理論分析を行うことを目指す。また、スコットランドにおける土地関連法改革を巡る法運用の実態、土地所有権法理論に関する議論の現在、当該改革に関する国内外の評価と今後の展望等に関して比較法的視点から考察する。
|
Causes of Carryover |
当初の計画以上に海外での現地調査を順調に行うことが出来たため、2023年度分の経費を前倒し請求することで、調査費用の補填を行った。補填分の残額は、当初の予定通り、2023年度の研究に要する旅費としての使用を計画している。
|
Research Products
(2 results)