2021 Fiscal Year Research-status Report
フランス憲法上の「連帯」と社会的統合―外国人の教育権に関する日仏比較法研究
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21K13186
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
塚林 美弥子 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 講師(任期付) (80825547)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 連帯 / 社会的紐帯 / 教育を受ける権利 / 生存権 / 子どもの貧困 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はフランス(仏)の「連帯」概念につき、特に外国にルーツを有する人々(外国人)の「教育を受ける権利」と社会的包摂の観点から検討し、その意義と課題を明らかにすることにある。最終的に日本における外国人の包摂の在り方、具体的には外国人の教育に関する諸制度をめぐる理念的枠組みを日仏の比較法研究により明らかにすることを目指しているが、2021年度は、その方法の一つとして日本における公教育の現状や問題点について日本国憲法26条1項の学説(学習権説及び生存権説)に照らし文献調査を中心に進めた。 調査の過程で、国内の子どもたちが「社会的排除」状態(=“子どもの貧困”)に陥っており、憲法上の「教育権」及び「生存権」が侵害されているという観点から考察する必要があるという認識に至った。社会的排除としての「貧困」は、本来であれば子ども達に保障されるはずの「関係性」や「つながり」の崩壊状態という側面を有するところ、以上の意味での「貧困」状態は教育を通じた成長・発達の権利(学習権)を侵害するため、両者は密接不可分な関係にある。他方、こうした理解に基づけば、各人の社会的紐帯の確保を憲法上の権利として観念し得る「連帯」の規範と決して無関係な議論ではないと考えられる。なお、仏では2018年以降、貧困状態の子どもに関する社会的包摂を政府が国家的政策として「連帯」に依拠して打ち出していることも明らかになった。 そこで、本年度は外国人の子どもの検討に先立ち、日本国内の子ども一般の「社会的排除」状態に関する調査を連帯、すなわち「関係性・つながりの保障」という観点から実施した。当該調査通じ、日本国憲法26条1項の「生存権説」が「他者との関係の構築」を規範的効果として含むという再解釈が可能であると明らかになった。しかしながら、外国人の子どもの置かれた状況については考察に至らず次年度以降の課題として残っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の問題意識の観点から実施した文献調査については順調に進行したものの、本研究の到達目標である外国人の社会権(教育権)保障と憲法上の「連帯」との関係性に関する本格的な調査には至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の調査内容については、2022年5月に論文として体系的にまとめ、『「子どもの貧困」と憲法―教育を受ける権利の「生存権説」再考』という題目で提出済みである(2023年4月刊行予定)。2022年度はこれを学会や研究会等を通じて積極的に報告し、公表していきたい。さらには、2021年度における調査で得た知見を基に仏の子どもの貧困・教育権と連帯との関係性を法学的に検討し、連帯がとくに外国人の教育権保障において有する規範的な効果を明らかにしたい。なお、Covid-19の感染状況をみつつ、法社会学や社会保障法学の研究者とも積極的に交流をする予定である。
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