2023 Fiscal Year Research-status Report
フランス憲法上の「連帯」と社会的統合―外国人の教育権に関する日仏比較法研究
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21K13186
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
塚林 美弥子 早稲田大学, 法学学術院, 講師(任期付) (80825547)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 憲法 / 居場所 / 連帯 / 生存権 / 教育権 / 子どもの貧困 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はフランス(仏)の「連帯」概念につき、特に外国にルーツを有する人々(外国人)の「教育を受ける権利」と社会的包摂の観点から検討し、その意義と課題を明らかにすることにある。最終的に日本における外国人の包摂の在り方、具体的には外国人の教育に関する諸制度をめぐる理念的枠組みを日仏の比較法研究により明らかにすることを目指しているが、2023年度は、2022年度の研究を踏まえて、子どもの「居場所づくり」を教育法の上位の規範である憲法上保障する解釈・適用論について更に研究を進めるとともに、仏憲法の分析を開始した。 2023年5月に行った日本教育法学会第53回定期総会での報告「『居場所』保障に関する憲法論的考察」では、昨年度の研究を更に深める観点から、学説分析だけではなく、内閣、文部科学省や子ども家庭庁などが実施している「居場所」確保に関する現実の政策実践について分析し、その背後にある要請が憲法上の権利といかなる関係を有しうるのかについて検討した。そこでは「居場所」という言葉は登場するものの、それを支える政策上の理念である「幸福追求権」について、「生存権」や「教育を受ける権利」も見据えた更に踏み込んだ議論がなされるべきことを指摘した。また、仏の状況についても研究を開始したが、仏の居場所確保に係る取組は仏憲法の連帯を基礎としているとの仮説から、仏連帯の基礎を作ったレオン・ブルジョアの学説を改めて分析し、仏の「居場所」に係る取組みの萌芽を見出そうとしているところである。 今年度の研究成果としては、「『子どもの貧困』と憲法 ―教育を受ける権利の『生存権説』再考」(『水島朝穂先生古稀記念:自由と平和の構想力 ―憲法学からの直言』所収)を公表した。来年度は研究の最終年度として、仏の研究を更に深めつつ、これまでの研究を総括することとしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
こども家庭庁の設立という日本における政策上の新たな動きを踏まえて、こども家庭庁と連携省庁である内閣府や文部科学省の政策実践を分析する必要が生じた。この点は本研究の裾野を更に拡張し、文献調査の結果との比較検討を通じて研究成果の充実化につながっている側面はあるものの、その分元々予定していた仏の理論・実態研究が後ろ倒しになってしまった。現在のところ、理論研究についてはレオン・ブルジョアの連帯論を改めて分析しているが、本格的な実態研究は2023年度末時点で、今後の課題とせざるをえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の調査内容については、日本における政策上の新たな動きを踏まえつつ、「『子どもの貧困』と憲法―教育を受ける権利の『生存権説』再考」『水島朝穂先生古稀記念:自由と平和の構想力 ―憲法学からの直言』所収)で公表済みである。本論文は、所謂「子どもの貧困」問題につき、社会福祉や教育福祉領域においては学問的蓄積があるものの、これを憲法学の観点から検討する研究が皆無であることに鑑み、憲法26条が保障する「教育を受ける権利」の観点から検討を加えた論考である。方法は26条をめぐるかつての憲法学説である「生存権説」に着目し、憲法25条「生存権」と憲法26条「教育を受ける権利」の「統一的解釈論」を提唱した。ここでは、25条には「他者とつながる権利」及びこれを実現する公権力の「義務」、すなわち「連帯」規範を読み込む契機が存在することを念頭に、子どもたちが他者とつながり、当該「紐帯」を基盤に成長・発達する権利が保障されるべきであることを論証した。 2024年度は、上記研究の総括をしつつ、仏の理論研究・実態研究を更に進めたい。理論研究については、「居場所」保障のための日本国憲法解釈論と仏憲法解釈論とを比較することを当面の目標とする。他方、実態研究については文献調査だけでは必ずしも十分ではないことに鑑み、法社会学や社会保障法学、教育法研究者など、実態に詳しい研究者らと積極的に交流をしながら進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
仏の研究のための費用を計上していたが、前述の通り、こども家庭庁の設立という日本における政策上の新たな動きを踏まえて、国内での研究を継続する必要性が生じ、元々予定していた仏の理論・実態研究が後ろ倒しになってしまっている。これにより、実態研究が更に充実したという側面はあるものの、その分予定していた経費の使用額が減少してしまっている。そこで、本年度に使用額が持ち越されてしまった分については、仏の理論研究・実態研究への費用を念頭に、科研費最終年度にふさわしい研究を遂行するための費用としたいと考えている。
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