2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on the changing functions of international institutions for preventing and resolving water conflicts
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21K13198
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
平野 実晴 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 助教 (40839685)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 水紛争 / 水の安全保障 / 国際司法裁判所 / 投資条約仲裁 / 水に対する人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、具体的な水紛争の事例を元に、その解決過程で国際裁判体が果たす役割を明らかにする作業を進めた。ガブチコヴォ=ナジマロシュ・プロジェクト紛争の解決過程において国際司法裁判所が果たした機能に関する研究と、水利用および水環境保全をめぐる投資条約仲裁判断の検討を行った研究について、それぞれ論文を公表した。また、投資条約仲裁と人権との関係について、ビジネスと人権の視点から行った分析を、ヨーロッパ国際法学会のインテレスト・グループで報告し、ワークショップ参加者らから質問やコメントを受けることができた。さらに、水に対する人権に関連する地域的人権裁判所や人権機関の判断例を検討し、欧州人権裁判所の判決について評釈を執筆した。 この他、今後の調査に活用するため、幅広く関連する紛争事例や国際制度に関する文献や資料を収集した。この間、頻繁に参加するようにしている国際的オンライン・セミナーなどを通して、越境水域に適用される条約のデータベースの更新状況や、興味深い越境湿地の国家間協力事例などを知ることができたことで、来年度以降の調査が計画しやすくなった。 理論面での研究として、水の特性がいかに国際法に反映されているのか、これまで検討してきた資料を通して明らかにすることを試みた。この暫定的成果は、オランダで行われた国際ワークショップで報告し、有益なフィードバックを得た。この理論面での研究は、あくまで本プロジェクトが目指す最終的な目標であり、現状ではまだ道半ばではあるが、これまでの到達点を確認し、課題と向き合うよい機会となった。まだ道半ばではあるが、これまでの到達点を確認し、課題と向き合うよい機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、2つの論文を公表することができたことが最大の成果である。投資条約仲裁の判断の研究の一部について、コロナ禍によって機会を失っていた海外で報告できた意義は大きい。また、欧州人権裁判所の判例の評釈も執筆し、受理された。このように、判例分析をもとにした研究を進展させることができている。 昨年度から、司法機関以外の国際制度に関しては、当初の予定より遅れが見られる。他方、国際法がどのように水の自然的(natural)特性を取り込んでいるのか、理論的考察を試み、オランダで開かれた国際ワークショップで発表した。こうした挑戦的な報告によって、後半に予定していた考察を早めに開始した。 このように、一定の研究計画の変更があるが、成果を出すことができており、研究期間全体としては、おおむね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
水をめぐるコンフリクトを引き起こす脅威への対応力を高める国際制度の特徴を明らかにするため、「水の安全保障」に注目し、当概念と国際法との関係を研究する。「水の安全保障」は、①伝統的な国家を中心とする安全保障として捉える側面、②人間の安全保障と結びつけて概念化される側面、③環境ないし生態系の視点から捉えた側面など、多面的である。こうした分類を行いつつ、様々な国家実行や国際制度で同概念がどのように用いられているのか分析する。2022年6月に学会発表を行い、参加者との議論も踏まえて軌道修正し、本年度中の論文公表を目指す。 以上の概念研究と並行し、様々な国際制度による国際法の適用の調査を進める。①国家間関係の側面では、まず「水の安全保障」を確保する国家間が「協力」する制度枠組みとはどういったものであるのか、定義する必要がある。その上で、その制度内で紛争を管理する手段になりうる調停手続に着目し、関連条約の規定および過去の事例から、その有用性を検討する。5月から前提の検討を行い、9月には本格的な分析作業に着手し、本年度中に論文の草稿を執筆することを目指す。②人間を中心に置く考え方から、国際人権制度の機能を、判例研究を通して明らかにする。また、時に投資事業との間で生じる緊張関係を抱える紛争を処理する投資条約仲裁についても、判断例の分析を行う。8月の国際学会の場で、研究の中間的成果を報告し、その後の論文執筆に活かす。③生態系サービスの維持および気候変動への適用の観点から、国際法・国際制度がどのような手法を用いているのか、調査を行う。本年度一年をかけ、少しずつ調査を進め、来年度の成果発表を目指す。
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Causes of Carryover |
海外の学界への出張と論文のオープンアクセスにかかる費用を前倒しで申請し、活用したが、結果的に当初の見積もりよりも低く費用を抑えることができたため、次年度使用額が生じた。 次年度の利用を一部前倒ししたが、基本的には当初の3年目の研究計画に従い執行する。
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Research Products
(5 results)