2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21K13203
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
呉 柏蒼 信州大学, 学術研究院社会科学系, 講師 (50895555)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 仮釈放 / 不服申立 / 権利説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、仮釈放手続における受刑者による主体的関与の可能性を明らかにして制度への提言を行うことを主な目的とし、台湾法を主な比較対象としている。特に台湾で近年の法改正後に不服申立制度が新設されたことについて、その形成の経緯や行われた議論について比較法的観点で研究してきた。研究の実施について、初年度は研究課題にかかわる国内の従来の議論を再確認しつつ、文献調査に重きを置きながら比較法的検討の一部を行った。これに基づいた1本の論文は翌年度に公刊された。次年度では、世界的感染症のパンデミックにより実施し得なかった海外現地調査を実施し、刑務所担当職員、仮釈放審査を司る官署、弁護士、被害者保護協会等の実務家への聞き取り調査等を通じて、台湾制度を分析する手掛かりを得た。新たな文献に対する分析を含む現地調査で得た結果を整理し、最終年度にそれをまとめた1本の論文が公刊された。 この論文では、以下の要点が指摘されている。まず、台湾の仮釈放の不服申立制度の成立は、仮釈放の取消決定や不許可決定に対して不服とした事案に起因した司法院大法官の二つの解釈がその直接的要因である一方、仮釈放の法的性質に対する認識の変化もその背景にあった。後者の議論は仮釈放権利説には落ち着いていないが、仮釈放の取消決定や不許可決定などに対して受刑者には法律上の利益を有していることが現制度で認められていると考えられる。また、一連の制度の改正及び確立により、司法救済の途が開かれたのみならず、受刑者または仮釈放者の手続きへの関与の程度が高められたことが伺えた点も重要である。翻って日本の現状を見れば、受刑者の自身の仮釈放案件への関与程度がごく限られており、その改善が求められている。日本制度の検討の際、台湾モデルがその方向性の一つとしてありうると提示した本研究は、仮釈放の政策的議論において高い意味を有していると思われる。
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