2021 Fiscal Year Research-status Report
刑法における責任主義とは何か――責任主義違反の法的意義の研究
Project/Area Number |
21K13205
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
徳永 元 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (50782009)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 責任主義 / 刑事責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「『責任なければ刑罰なし』という、刑法における責任主義とは何か」を論究する。本研究の目的は、「刑法における責任主義とは何か」を解明することによって、責任主義の法的意義を明確にすることである。今まで取り組まれてこなかった、責任主義違反の主張に実定法上の根拠を付与すること、刑法に固有の責任概念を明らかにすることを試みる。具体的には、①責任主義違反とは何か、つまり、「いつ責任主義に違反したことになるのか」(要件論)、「責任主義に違反するとどうなるのか」(効果論)、②その前提として、「規範的責任論」とは、どのような考え方なのかを検討する。 当初計画として、2021年度は、「回避不可能な禁止の錯誤」に関する判例の検討を行うこととしていた。ドイツ連邦通常裁判所が最初に責任原理違反を認めたのは、自らの行為が禁止されているということについて、回避することのできない錯誤に陥った場合である。これに関する一連の判例を詳細に分析することにより、責任主義違反の理論的・法的根拠と、その要件および効果を解明することを予定していた。 上記計画にのっとって、調査を進めた結果、以下のことが明らかとなった。すなわち、第1に、ドイツ連邦憲法裁判所が、責任主義違反を理由に通常裁判所の下した判決を批判したことはないことである。したがって、裁判所の判断から直接に示唆を得るという当初のねらいは達成できなかった。第2に、回避不可能な禁止の錯誤に関する刑法典17条の一連の判例からは、同条の適用の限界がある程度明らかとなったものの、この限界画定に際して責任主義が果たしている直接の役割は明らかとならなかった。 その他、責任主義に関連する論文を複数執筆した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、裁判所の判断から直接に示唆を得るという当初のねらいは達成できなかった。しかし、このことは当初計画においてある程度予想できていたことに加え、禁止の錯誤に関する17条の適用範囲がある程度明らかとなったことは、責任主義の具体的な内容の解明を目指す本研究にとって、一定の成果であった。また、禁止の錯誤に関する判例の定式は、ドイツ連邦憲法裁判所のその後の判例にも継受されていることが確認できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初計画において、2022年度は、刑罰と保安処分に関する判例の検討を行うこととしていた。責任主義に関する近年のドイツ刑法学の一大トピックとして、行為責任にもとづき科される刑罰と、行為者の再犯の危険性にもとづき命じられる保安処分との関係、両者の分離がある。ここでは、制裁の内容やその手続にも焦点を当てて、責任主義違反の要件および効果を明確化することを予定していた。 今年度は、上記の当初計画にのっとって調査を進める予定である。現時点で複数の資料が入手出来ており、計画通りに研究が進められる見込みである。 成果発表としては、九州法学会第127回学術大会において報告を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大により、研究会への参加等を目的とした国内旅行が減少したため、旅費の項目で大きな未使用が生じた。2022年度の状況は見通せないものの、為替の変動による外国書籍の購入費の高騰を考慮すると、図書の購入のための物品費が必要以上にかかる可能性があるため、こちらに補填することも視野に入れて予算を執行する。
|
Research Products
(5 results)