2021 Fiscal Year Research-status Report
「情報権」概念を基軸とした団体の意思決定規範と構成員の権利保障との相関性の検討
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21K13214
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
西脇 秀一郎 愛媛大学, 法文学部, 講師 (70843556)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 情報(請求)権 / 民法 / 非営利社団 / 民法上の組合 / 法人 / 検査権(調査権・監視権) / 構成員権・管理権 / 閲覧謄写請求権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、非営利団体(社団または組合)を対象とし、ドイツ法上の理論展開を参考として、構成員が適正な情報の取得・共有に基づき団体運営に参与するための基礎的な権利を「情報(請求)権」と定義づけ、その権利保障が適正な団体運営に(どのように)役立ち得るか、および、団体的な拘束力の正当性を根拠づける諸要因・条件となりうるかについて、日独の法理論研究を行うことを目的とする。 本年度では、まず、本研究の前提作業として遂行した科研費(研究活動スタート支援)による研究をもとに、「情報(請求)権」の一種である、日独の民法上の組合における組合員の「検査権」(Kontrollrecht)概念の規律内容とその意義に関する分析を進めた。それにより、当該権利は、各組合員がその地位に基づき業務の決定・執行の監督をし、運営に関与(参与)をする局面において積極的な意義を有し、それゆえに全ての組合員に(強行法的に)保障された権利であることを明らかとし、当該成果を公表した。また、公表に際し、新たに複数の研究会に加入し、研究遂行に不可欠な進捗・成果報告の機会を確保した。さらに、ドイツの会社法ないし民事法上の情報権に関する文献の精読・分析を行い、また、2021年には(民法上の組合の規律を含む)ドイツの人的会社法の大規模改正が行われたため、本研究に関わる限りで当該改正法の関連資料を渉猟し、改正後の規律内容の分析を進めた。 ほかに、団体の運営に関与(参与)する権利保障の意義の考察に際し、本年度では、地域資源管理を担う団体活動の実態(実体)分析のため、隣接諸科学との学術交流および林野庁や自治体の実務担当者との意見交流に取り組み、複数の意見交換の機会を得ることができた。当該研究調査に基づき、財産管理型の団体運営の事例分析として、協同組合と入会団体(集団)における法制度上の課題を整理し、成果の一部を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、非営利団体の構成員が適正な情報の取得・共有に基づき団体の運営に参与するための基礎的な権利を「情報権(情報請求権)」と定義づけ、当該権利保障の積極的意義を検証し、ひいては「団体的拘束力」ないしガバナンスを正当化する諸要因・条件の一端を理論的・実証的に明らかとすることを主たる目的とする。 2021年度では、日独の文献収集・翻訳・読解を進め、そのうち、特に民法上の組合の検査権(調査権)に関する研究成果の一部を公表した。また、団体に関する法解釈論は、実際に社会において存在する団体運営に資するものであるべきことから、2021年度では、文献研究と並行して、実態面の調査研究を進めた。具体的には、地域資源管理を含む財産管理型の諸団体の事例を分析し、それらの成果の一部を公表することができた。当初計画では成果公表は初年度ではなく次年度以降と想定していたため、これらの点において当初計画以上の進展があった。 また、2021年度では、【研究実績の概要】記載の通り、団体の構成員に保障されるべき情報権(情報請求権)に関する文献研究等を通して、当該権利保障と団体の性質決定ないし団体的拘束力との相関性の検証を進展させ、同時に、農林業に関する各種の実務担当者等との連携協力体制を構築することができた。 他方、COVID-19の影響により、研究調査にも様々な形で制約が生じ、2021年度においては物品調達や文献収集・分析・調査に支障が生じた。そのため、適宜、適切に研究計画を修正しつつ可能は範囲において研究調査を進展させることとした。 以上を総合考慮し、計画の一部修正が必要となったものの、全体としては「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度では、引き続き団体構成員の情報権(情報請求権)に関する日独の関連文献の渉猟・精読・整理・分析・翻訳作業を進める。また、研究成果を公表するための前提作業として、適宜進捗に応じて研究会等における研究報告を行うことを予定している。 具体的には、2021年度にて具体的に検討対象とした民法上の組合の検査権もその一種に位置づけられている、団体の構成員の「情報権(情報請求権)」について、ドイツ法学における議論の全体像を整理し、当該権利に関して基礎的な視座を提供する体系書等の書籍・文献を分析し、学説・理論上の議論を整理する。他方で、団体類型ごとの個別具体的な場面における構成員の権利に関する法規整のあり方を検討するために、引き続き、民法上の組合および(非営利)社団の個別事例を対象に、団体運営へ参与するための構成員の権利の種類・性質・意義に関する文献調査・論文執筆準備を行う。 このほか、本研究では、日本の各種(非営利)団体の運営・ガバナンスの現況を検証するために、適宜、非営利団体の内部組織に関する調査研究を行う予定としている。 少なくとも、2022年度においても引き続き、本研究に必要な限りで、外部機関・実務担当者との連携体制を構築ないし充実させる予定である。本研究に関連して、これまで、愛媛県の入会林野・入会集団(団体)に関わる担当課、愛媛県協同組合協議会、愛媛県土地家屋調査士会等の実務担当者と意見交換をする機会を得ており、今後も本研究に関連する調査研究の展開に加え、広く成果を公表し、研究を発展的に展開することを予定している。また、本研究の成果を、教育や社会貢献活動等を通じてより広く社会に還元することを試みる。 なお、2022年度においても、COVID-19の影響が一定程度継続されることを想定し、必要に応じて柔軟に研究計画をその都度の状況に対応させる予定である。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響の継続により、2021年度では、(緊急事態宣言・蔓延防止等の影響等もあり)対面での研究会等が中止・延期またはオンラインのみでの開催となり、国内外出張も所属機関及び居住地自治体の要請により禁止又は自粛となったため、資料収集、研究会報告、論文作成作業において当初計画を修正すべき支障が生じた。また、勤務校では遠隔講義等への対処のためエフォートに変更が生じ、加えて県外への出張等も制限され、各地での文献収集調査による必要な収集が遂行できず、費用項目ごとの支出についても研究計画の見直しが必要となった。特に、物品流通の遅滞、独語文献の一部の購入、国内外への調査収集作業が行えず、使用額の一部を次年度に繰り越して使用することとした。 2022年度では、残額につき日独の文献の購入・調査に使用する予定であり、また論文公表に伴い必要となる機材等の物品に支出をする予定である。仮にCOVID-19の影響が継続した場合には、文献収集や団体運営の実態調査のための出張に予定していた経費への支出計画を修正し、適宜、複写・論文抜刷費、物品・消耗品等への支出に振り替えて使用する。
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Research Products
(5 results)