2021 Fiscal Year Research-status Report
Neoliberal reforms of social security system and the historical heritages of Developmentalism in Republic of Korea
Project/Area Number |
21K13232
|
Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
井上 睦 北海学園大学, 法学部, 准教授 (00732455)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 新自由主義 / 開発主義 / 家族主義 / 経済政策と社会政策のリフレーミング / ケアの市場化 / 社会的投資 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、先行研究の再整理や一次状況の再把握など、研究インフラの整備をおこなった上で、先進国の福祉国家および共通のレジームに分類される東アジア諸国との比較から韓国の特徴の再把握・再定義を行った。 まず、すでに蓄積のある社会保険・公的扶助分野についての基礎的な研究資料を収集・整理するとともに、2000年代以降の新たな改革として、社会福祉サービスの研究資料を収集し、批判的検討を行った。産業構造の変容や家族形態の変容に伴い、新しい社会的リスクが顕在化した2000年以降の韓国では、他の先進諸国と同様に、社会的投資戦略が採用され、育児・介護といったケアサービス分野での新たな社会政策の展開が見られた。一方、この新たな社会保障改革は、経済成長戦略の一環として明確に位置づけられ、柔軟な労働市場の活用・開発やサービス産業における雇用創出といった労働市場政策の下で展開したことが明らかになった。それゆえに、人的投資を中心とした社会的投資戦略が一般に目指す貧困削減や少子高齢化の抑制といった効果は持たず、新自由主義的な経済政策に適合する育児・介護の「市場化」を伴った。 他方、こうした制度改革は、従来の開発主義レジームの下で展開されたために、家族がケアの第一義的責任を担うという制度それ自体は維持され、またジェンダー化された労働市場の下で、さらに家族主義を強化する機能を有した。ケア政策の展開は一般に、ケアの「社会化」とも呼ばれ、「脱家族化」機能を持つとされるが(Esping-Andersen 1999)、韓国における2000年代以降の改革では、ケアの市場化と再家族化が進行したことが明らかになった。こうしたケア政策の展開は、「埋め込まれた市場化」(Bode 2003)ともいえるものであり、本研究課題の理論的枠組みである社会保障制度改革の新自由主義的展開と制度的遺制との関連を示唆するものといえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特に問題なく予定通り進行している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの研究で明らかにした制度改革の要因について、政治過程分析を中心に研究を進める。 第1に、制度改革の特色をもたらした要因として、政党の党派性および政治的対立軸に着目して分析を行う。福祉国家における市場化それ自体は、他の先進諸国にも共通してみられる一方、政権政党の党派性によってその特色が異なるという指摘がある(Gringrich 2011)。一方で韓国においては、党派性の異なる政党の政権交代にもかかわらず、市場化路線が継承されたのは、韓国の政治的対立軸の特殊性に由来すると考えられる。それゆえ、韓国の政党の党派性および政治的対立軸を規定した要因として、社会的亀裂について歴史的に検討を行う。 第2に、1990年代の制度改革は、民主化とアジア通貨危機という政治・経済的要因と相まって、拡大それ自体は急激なものであった一方で、既存の制度の廃棄が行われたわけではない。漸進的変化(Streek&Thelen 2005)に関する理論的研究を下敷きとして、改革が政権交代に伴う制度の再解釈(制度転用)なのか、それとも既存の制度に新たな制度を重ねる(重層化)というように位置づけられるのかを明らかにする。 第3に、第1と第2の関係性の整理、つまり、政権交代および政治的対立軸が制度の漸進的変化にいかなる影響を与えたのかを明らかにする。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍で学会がオンライン開催で国内出張の機会がなく、また資料収集のための海外渡航に制限があったため。
|