2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K13382
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
李 玲 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (80724244)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | パトリオティズム / ナショナリズム / 自愛心 / 早期愛着 / 寛容 / 中国 / ブランド消費 / 国潮ブランド |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度において、次のような成果を得られた。 (1)パトリオティズムとナショナリズムの機能的差異を文献調査によって明らかにした。パトリオティズムは国民の健全的な自己概念であり、市民が自分の祖国に対して抱く強い影響力が伴うポジティブな見方であり、祖国に対する強い情緒的愛着である。基本的な視線は内集団向けだが、外集団に対して排他的ではないという点は特に興味深い。それに対して、ナショナリズムは戦争を引き起こす強硬主義という意味合いが強く、国家優越感、他国との競争心や他国を凌駕する支配力を強調する概念である。基本的な目線は外集団との比較、かつ下方比較であり、国際秩序における自国の国益を訴求することが使命である。 (2)中国の文脈におけるパトリオティズムの意味および消費行動に与える影響の一面はインタビュー調査によって解明した。列強侵略の屈辱史から強い影響を受け、中国人は「祖国の復興と強大」に対して強い願望を持っていることが確認された。中国の古い諺である「落葉帰根」(落ち葉は根に帰る)に表れるように、中国人は祖国の悠久な歴史文化、自然、生まれ育ちの故郷に対して強い愛着を持っていることも確認された。また、中国人消費者のブランド消費行動において、海外ブランドを含む国際化が進んだブランドに対する強い支持と、中国の伝統的要素を取り入れた国潮ブランドの消費ブームが確認された。特に、海外ブランドに対する支持は(1)で提示されたパトリオティズムの非排他性を立証したといえよう。 (3)上記の研究成果を受けて、消費者行動研究におけるパトリオティズムの先行研究を再検討し、新たな研究の方向性を提示した。具体的には、社会心理学分野の研究成果を援用しつつ、パトリオティズムは自愛心、養育者への早期愛着、外集団に対する寛容との関連性が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の主要な研究目標は、特にナショナリズムという民族主義関連概念との峻別を意識したパトリオティズムの概念的枠組みを再考することである。文献調査とインタビュー調査を用いて、「研究実績概要」に述べられる次のようなことが確認された。パトリオティズムとナショナリズムとの機能的差異、中国的パトリオティズムの意味とそれが国内外ブランドの消費との関係、パトリオティズムと自愛心、早期愛着、外集団に対する寛容との関係。 とりわけ、パトリオティズムは人間の本能的行為であり、自己愛という個人の基本欲求との関連性、また早期愛着の仕組みとの類似性といった点は今後の研究方向性を示唆する、斬新な発見であることを特筆すべきであろう。その発見は、本研究の目標の一つであるパトリオティズムの概念的枠組みの再考を一歩前進させた。 以上により、本年度の研究はおおむね順調に進展していると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について、まずは、中国的パトリオティズムの概念的構造をより明確化し、同概念と消費者の国内外ブランド消費との関連性を精緻的に解明する。具体的には、生まれ育ちの故郷の自然風土や歴史文化に対する愛着的感情と国内ブランド・外国ブランドの消費との関係性を探索することである。 次に、祖国愛の動機要因である自愛心、祖国愛と同様なメカニズムを持つと推定される早期愛着といった社会心理学的な概念の理論研究をサーベイし、祖国愛との理論的関連性を探索し、分析フレームワークを構築する。そのうえで、アンケート調査に基づく仮説検証型の実証研究を行い、各概念が消費者の国内外ブランド消費に与える影響を解明する。 最後に、同課題の全期間の研究を振り返り、研究の成果、特に残される課題について精緻に検討し、新たな発展方向性を示唆する。
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Causes of Carryover |
次年度に繰越す助成金の額はわずか50円で、執行が困難な小銭であったため残した。次年度では、主にフィールドワークのための旅費、研究資料購入費、インタビュー調査協力者への謝品購入費等に活用する予定である。
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