2021 Fiscal Year Research-status Report
評価者の評価能力と評価対象の特性を同時に数値化する一対比較データ分析法の研究開発
Project/Area Number |
21K13393
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
橋本 翔 西南学院大学, 商学部, 講師 (80756700)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 一対比較法 / 感性工学 / 個人差 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、マーケティングなどの分野において分析対象に対する評価者の心理的特徴を定量的に指標化し、対象間の差異を明らかにする試みが行われている。その代表的な手法である一対比較法では、評価者の持つ弁別能力の高低が考慮されず、弁別能力が低い評価者から得られたデータの分析結果は信頼性が低いという問題がある。本研究では、一対比較データに対して個人の弁別能力を統計的にモデリングし、評価者の弁別能力を数値として推定し活用することで、信頼性が高い統計解析手法を構築することを目的としている。手法の有用性・応用可能性を実データ解析を用いて実証するために、3つの小目標(A) 評価者の弁別能力と評価対象の心理指標の数理的モデリング、(B) 評価者の弁別能力と評価対象の心理指標の推定法の開発、(C) 実データ解析による有用性の検証、を実施する。開発される分析手法は、従来法よりも信頼性の高い数値指標の構築法であり、マーケティングにおける一対比較データ分析の標準となり得る。 本研究の目的は評価者の弁別能力を推定するべきパラメータとして扱い、評価者の弁別能力と刺激の特性の両方が一対比較判断に影響している統計モデルとその最適化アルゴリズムを開発し、シミュレーション解析でその妥当性を、そして実データ解析でその有用性・応用可能性を示すことである。 本年度の成果としては、本研究のたたき台となる初期モデルを考案した。これは伝統的な比較判断のモデルであるThurstone(1927)のCase 5に個人差パラメータを導入した拡張モデルであり、Thurstoneモデルが正規分布で表現していた刺激の印象の強さに対して、分散パラメータが個人ごとに異なることを仮定しているモデルである。 また、このモデルに対してパラメータの最適化を行うプログラムを作成した。プログラムはR言語およびstan言語で記述されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
評価者の弁別能力を推定するべきパラメータとして扱い、評価者の弁別能力と刺激の特性の両方が一対比較判断に影響している統計モデルとその最適化アルゴリズムを開発し、シミュレーション解析でその妥当性を、そして実データ解析でその有用性・応用可能性を示す。そのため、「小目標A.評価者の弁別能力と評価対象の心理指標の数理的モデリング」「小目標B.評価者の弁別能力と評価対象の心理指標の推定法の開発」「小目標C.実データ解析による有用性の検証」を設定したが本年度の成果としては、小目標AおよびBを部分的に達成したことになる。 具体的には、本年度の成果としては、本研究のたたき台となる初期モデルを考案した。これは伝統的な比較判断のモデルであるThurstone(1927)のCase 5に個人差パラメータを導入した拡張モデルであり、Thurstoneモデルが正規分布で表現していた刺激の印象の強さに対して、分散パラメータが個人ごとに異なることを仮定しているモデルである。 また、このモデルに対してパラメータの最適化を行うプログラムを作成した。プログラムはR言語およびstan言語で記述した。 ここでstan言語を用いてベイズ推定を行った理由としては、現実場面においてデータのサイズが小さいことが想定されるためである。つまり、一般に一対比較実験は評価対象数×(評価対象数-1) / 2の評価対象ペアに対して、一人の被験者が全ての刺激を評価するが、その回数については1度以下であることが多い。1度以下というのは、評価しないペアが存在する場合もあるということである。仮にすべてのペアに対するデータがあったとしても、分散パラメータを推定する上ではデータ数は少なく、データに過剰に影響された推定値が得られることがある。事前分布を定めることは、これらの問題を対策する上での一助となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は実際の一対比較評価データを得ることにより、被験者の刺激の印象の弁別能力が分散パラメータとして測定可能かを検証する。また、データに適合するモデルを再構築することにより、より現実問題の表現となるような統計モデルを作成する。 具体的には、まず調査対象として自動車の外観デザインや動物の顔、あるいは芸術・文学などのように、評価者の興味や専門的な知識の有無によって評価者の印象判断の弁別能力が異なる対象ドメインの評価対象物を収集する。 次に、評価者として、それらの専門家・専門的知識を有している人と、そうでない人を収集する。 次にそれらの評価者に対して一対比較実験でデータを収集し、提案手法で分析し、評価者の弁別能力の推定値を得る。そして、対象に対する評価者の知識や興味によって、弁別能力パラメータに有意な差異が発生していることを確認することで、統計モデルの有用性を明らかにする。また、従来法の結果と比較することにより、分析結果の妥当性が担保されていることを確認する。 それらの差異が十分に表現されていない場合には、新たなモデルの開発を行う。例えば母数の事前分布のパラメータが潜在的に2つのクラスがあるようなモデルがその一案である。
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Causes of Carryover |
物品費として当該年度はワークステーションを購入する予定をしていた予算が主に執行できずにいる。これは、①予算額が変更知れたこと、および②研究者の勤務先が変更したことに伴って、従来利用できていたワークステーションが利用できなくなったことや、利用可能な電源などの環境の条件が変更されたことがあげられる。 令和4年度には研究に必要なコンピュータの規模について精査し、当該の予算で十分な計算環境を整える計画である。
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