2022 Fiscal Year Research-status Report
当事者の経験が反抑圧ソーシャルワークの推進に与える示唆:在日朝鮮人女性を例として
Project/Area Number |
21K13462
|
Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
宮崎 理 明治学院大学, 社会学部, 准教授 (50770020)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ソーシャルワーク / 在日朝鮮人女性 / 反抑圧ソーシャルワーク / 交差性 / インターセクショナリティ / ポストコロニアル・フェミニスト・ソーシャルワーク / 交差性 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、2021年度に収集・精査した文献を手がかりにして、ソーシャルワークにおける「交差性(intersectionality)」概念の有用性に関する論文、ポストコロニアル・フェミニスト・ソーシャルワークに関する書籍の執筆を進めた。 また、10月に開催された日本社会福祉学会秋季大会において報告を行い、これまでの研究成果を公表した。同報告では、ガヤトリ・スピヴァクの『サバルタンは語ることができるか』(Can the Subaltern Speak?)(1988=2000)やチャンドラ・モーハンティーの『西洋の視線の下で:フェミニズム理論と植民地主義言説』(Under Western Eyes : Feminist Scholarship and Colonial Discourses)(1984=2012)などを手掛かりとして、いかなるものが在日朝鮮人女性たちにサバルタン性を帯びさせているのかを論じた。 そのひとつは、抑圧を一つの要素からのみ説明しようとする枠組みであることを明らかにした。性差別を問題化する枠組みも、植民地主義やレイシズムを問題化する枠組みも、いずれも部分的で歪んでいる。一つの要素からのみ抑圧が問題化されるがゆえに、在日朝鮮人女性のように交差的な抑圧にさらされている人びとが直面している問題は、問題として認識されない。 また、支援する者/される者という主客に分離するソーシャルワークのあり方そのものも、彼女たちにサバルタン性を帯びさせていることを指摘した。ソーシャルワークが「人びと」を単なるサービスユーザーとして想定しがちなことが、集団としての彼女たちへの抑圧と抵抗の現実を顕在化させることを難しくしている。 なお、在日朝鮮人女性の交差的な被抑圧経験とそれに抗する彼女たちの活動の経験が持つ意味を明らかにするためのインタビュー調査については、調整を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度もcovid-19拡大の影響が続き国外への渡航が困難となったために、当初の計画通りに調査を実施することができなかった。また、日本国内においても、対面でのインタビュー調査を計画通りに実施することが難しい状況が続いた。さらに、研究代表者がcovid-19に罹患し体調不良が続いたため、研究計画全体に遅れが生じた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、日本の代表的な被抑圧集団の一つである在日朝鮮人女性に焦点をあて、交差的な被抑圧経験とそれに抗する活動の経験が持つ意味を明らかにするために、当事者へのインタビュー調査を実施する予定である。 また、covid-19の影響で延期となっていた国外調査も実施し、反抑圧ソーシャルワークの先進地の実態を明らかにしたうえで、日本で応用可能な知見を抽出する。 さらに、これまで取り組んできたことを整理し、学会報告や論文執筆、研究会の開催などを通じて成果を公表する。
|
Causes of Carryover |
covid-19の影響により、計画通りに調査を実施できず旅費や謝金等の支出がなかったために次年度使用額が生じた。 2023年度はそれらの実施と、研究成果公表のための研究会の開催や学会での報告のために使用する予定である。
|