2021 Fiscal Year Research-status Report
Anti-inflammatory mechanisms of 1,3-diphenethylurea in watercress
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21K13502
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
中屋 愼 大阪府立大学, 研究推進機構, 客員研究員 (90736886)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | クレソン / 1,3-ジフェネチルウレア / 抗炎症効果 / 脂質メディエータ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、研究代表者は、葉菜類であるクレソン(Nasturtium officinale)の抗炎症効果に着目し、その主要機能性物質としてフェネチルイソチオシアネート(PE-ITC)及び1,3-ジフェネチルウレア(PE-UR)を見出した。そして、これらの物質は炎症を促進させる可溶性エポキシヒドロラーゼ(sEH)を阻害することにより、抗炎症効果を示すことを、in vitro実験より明らかにした。さらに、マウス血清に含まれるエイコサノイドを網羅的に定量分析し、PE-ITC及びPE-URはsEHとは異なる経路に属するプロスタグランジンやロイコトリエンを低減させることを発見した。炎症促進に関与するエイコサノイド量の低減がクレソンの抗炎症効果の一因と考えられるが、現在得ている知見ではその作用機序を説明できない。そこで本研究では、培養細胞系を用いてクレソンに含まれるPE-ITC及びPE-URの抗炎症物質としての作用機序を解明することを目的とした。 本研究は「抗炎症効果を持つ野菜」について明確な学術的根拠を示すものであり、食品に含まれる新規微量成分の機能性に関する研究として価値がある。これまでの学術的解釈では、クレソンを含むアブラナ科植物に含まれるイソチオシアネート類が主な機能性成分として挙げられているが、本研究はウレア類を新規な抗炎症成分として提示し、その作用機序の解明を目指すものである。食品に含まれるウレア類の機能性研究は報告例が無く、独自の学術的観点と言える。 本研究の遂行により、新たな食品機能性成分に関する知見が蓄積され、研究領域の拡大が期待できる。また、科学的根拠に基づいて、抗炎症効果を意図する野菜の活用が可能となり、食による健康増進の一助となることが期待できる。これは『持続可能な開発目標(SDGs)』「3.d.健康危険因子の緩和及び危険因子管理能力の強化」に繋がるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の遂行には、炎症反応に関与する細胞の安定的な培養系と、効果を評価するための分析系を構築する必要がある。そこで、先ずマウス由来マスト細胞株PB-3c安定的に培養する系を構築した。マウス骨髄細胞をIL-3によりマスト細胞へと誘導するために、マウス単球系細胞株WEHI-3b培養上清をPB-3c培養時に添加し、質の良い培養マスト細胞を得た。次いで、培養マスト細胞を刺激し脂質メディエータを産生させる誘導方法及び産生された脂質メディエータを回収、精製し分析する方法を検討した。さらに、クレソンに含まれる機能性物質であるPE-ITC及びPE-URを培養細胞系に添加する方法を検討した。得られた知見から、本研究に必要な培養から分析に至る一連の実験系が確立できた。 本研究ではクレソンに含まれる機能性成分としてPE-ITCおよびPE-URに注目しているが、PE-ITCは高純度品が市販されているものの、PE-URは市販されておらず化学合成する他ない。今年度は、これまでの合成方法を再検討し、安価な市販試薬を出発物質とする合成法の改良を行った。この合成方法により本研究の遂行に十分な量の高純度PE-URを入手した。 これまでに進めてきた脂質メディエータ解析から、PE-ITCやPE-URは、炭素数18の多価不飽和脂肪酸に由来するエイコサノイドだけでなく、リン脂質に由来する脂質メディエータにも影響をおよぼし抗炎症効果を発揮する可能性が見出された。そこで、当初計画していたエイコサノイドに加えて、リン脂質由来の脂質メディエータを本研究の解析対象に含めることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に実施した研究から、培養マスト細胞を用いた一連の培養-分析系が確立できた。この実験系を用いて、マスト細胞に対するPE-ITC及びPE-URの抗炎症効果とその作用機序を、産生される脂質メディエータを解析することにより調べる。また、炎症反応の制御に重要な役割をもつ細胞のひとつであるマクロファージを評価対象として培養-分析系を構築し、PE-ITC及びPE-URの抗炎症効果とその作用機序を調べる。さらに、エイコサノイド産生の重要な酵素であるリポキシゲナーゼやシクロオキゲナーゼに対するPE-ITC及びPE-URの阻害活性について、in vitroでの評価を行う計画である。 得られた知見を総合し、炎症反応の制御に関連する複数の細胞系における、クレソンに含まれる機能性物質PE-ITC及びPE-URの効果とその作用機序について考察し、クレソンの摂食により体内で起こりうる抗炎症効果とその作用機序を推察する。
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Causes of Carryover |
2月初旬に提出した支払請求書作成時に発注済みであった物品の見積額と納入額に差があったために86円の繰越となった。次年度の物品費として活用させていただく計画である。
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