2021 Fiscal Year Research-status Report
公立学校における支援ネットワークの形成方略とインクルージョン実践の多次元性
Project/Area Number |
21K13541
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 貴宣 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (50737070)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | インクルージョン / 公立学校 / 視覚障害 / 状況論 / 生活形式 / 参加の組織化 / コミュニティの相互的構成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度に実施した調査研究においては、障害児と健常児との同一学級処遇を志向する公立小学校での日常的実践を状況論の知見に依拠して読み解くことを試みてきた。 その際、学校におけるインクルージョンの実践の関係性を考慮した参加の問題として捉えなおして、「参加」それ自体の論理や方法、形式についての考察を行ってきた。この場合、通常学級への障害児の参加を組織化していく教師たちの実践を中心としながらも、通常学級の担任と支援単との関係、通常学級担任や支援担と障害児を含めたクラス全体との関係、障害児と周囲の子どもたちとの関係などが本来的に問われうる。本稿が照準してきたのは、このように複数のカテゴリーにまたがって生起する複層的な相互作用や関係性の様態であり、それらを通じて産出される学級コミュニティのダイナミズムであった。 とりわけ、この度の研究では道具の使用に着目した分析を行ってきた。種類や程度の異なる様々なインペアメントを有する障害児たちが各地の通常学校に就学・在籍するようになるなか、その必要に応じて教室に配置され使用される道具のバリエーションはおのずと豊かなものになる。障害のある身体を通常学級へと組み入れていくことを企図するインクルージョンの実践とは、まずもって当の子どもが有するインペアメントに関連/連接する道具を学級空間の中に配置し、それらを日常の活動に準じてその都度使用していく実践と分かちがたく結びついているということである。 この度の研究を通じて明らかになった諸知見を要約するならば、障害児と健常児との同一学級処遇を志向する取り組みのなかには、ただ単に環境整備や合理的配慮によって障害児の学級活動への参加やアクセスを担保していく側面だけでなく、健常児の側から障害児の世界に分け入っていくような、寄り添っていくようなモメントが欠くべからざる成分として含みこまれているということであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、通常学校に在籍する障害児とそれらに関わる多様なアクターたちが織り成してゆく日常的な相互作用/コミュニケーションを分析することにより、障害児の教育支援に関わる重層的なネットワークの形成方略/形成プロセスを明らかにすることである。こうした研究計画を前提に、今年度の研究においては、学級内部の相互作用の特徴を特に生活場面でのやり取りに着目しながら考察してきた。 本研究は教室場面での相互作用、学校組織内部での相互作用、学校とその環境との相互作用、これら三つの水準での人々のやり取りを分析することによって障害児の教育支援に関わるネットワークの形成方略/形成プロセスを明らかにすることにある。こうした計画の中に本年度の研究を位置づけるなら、今回は教室場面での相互作用の微視的分析を丹念に行ってきたということになる。状況論的な理論枠組みに依拠して、健常児と障害児との間に独特の学習プロセスが生起していく様態を解明してきた。つまり、ここまでの研究では三つのステップのうち、第一段階の研究計画をある程度達成できたということである。とりわけ、障害児と健常児との同一学級処遇という事態を単なる障害児のインクルーシブ教育の実践として把握するのでなく、健常児と障害児との生活形式の創発特性として、すなわち、「コミュニティの相互的構成」として特定しえた点は大きな成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続きクラス内での相互行為の分析に従事していく。今回は授業以外の生活場面での相互行為を主たる分析対象としてきたので、これからは授業場面でのやりとりに着目した分析を行っていく。そのうえで、(1)学校組織のあり方全体へと視野を広げ、障害児を取り巻く諸アクターが日々のコミュニケーションを通じて重層的なネットワークを形成し、障害児支援の仕組みを構築していくその過程を描出する。これにより、(2)障害児にとってもっとも望ましい支援の仕組と、それを実現するネットワークのありかたを解明していきたい。 こうした研究課題に取り組むにあたって、最適な研究手法となるのは、定性的な調査手法である。調査の主たるフィールドは応募者がこれまで調査を続けてきた、大阪府内の3ヶ所の公立小学校とする。さらに本研究では、これらのフィールド研究を補完するための調査の実施を計画している。 まず第一に、資料調査および生活史インタビューである。これまでに公刊された視覚障害者の通常学校就学体験記や教師による教育実践記録、諸団体の機関誌など関連資料の収集と分析を行う。加えて、かつての通常学校で視覚障害児を指導した経験をもつ教員や、通常学校での被教育体験を有する成人視覚障害者へのインタビューを行う。 第二に首都圏の公立学校での調査である。折を見て東京都、神奈川県、埼玉県を中心に、障害児のインクルーシブ教育に関して積極的な取り組みを行っている自治体の学校現場を訪問し、インテンシブな聞き取り調査やフィールドワークを実施する。その際、医療的ケアの必要な子どもや肢体不自由児、知的障害のある子どもなど、他の障害類型の子どもを取り巻く状況にもスポットを当てる。本研究の対象は視覚障害児ではあるが、比較の観点から、この首都圏調査においては、対照をできるだけ幅広い障害へと拡張し、複数の公立学校を訪問しながら面接調査や授業観察を実施する。
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Causes of Carryover |
次年度には、視覚障害児のインクルーシブ教育実践において、ITC機器の活用がいかなる効果を有するかを調べるため、複数の視覚障碍者用のICT機器の購入を予定しており、そのための予算を充分に確保すべく、今年度分より一定額の繰り越しを行なった。
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