2022 Fiscal Year Research-status Report
公立学校における支援ネットワークの形成方略とインクルージョン実践の多次元性
Project/Area Number |
21K13541
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 貴宣 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (50737070)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | インクルーシブ教育 / フィールドワーク / 視覚障害 / 相互行為 / コミュニケーション / 信頼 / ビデオデータ / 映像分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、公立小学校での調査によって得られたデータを素材とし、全盲の障害児を含む子ども同士のやり取りにスポットを当て、日常活動を協同して作り上げていくメンバーの方法を考察してきた。 その際、1年生の生活科の授業の「昔遊び」という単元における盲児と健常児との相互作用にとりわけ着目した。生活科の授業の一環として行われたすごろく遊びをビデオカメラで撮影し、その映像データの分析に取り組んだ。対象は、盲児を含む4人の子どもで、この児童たちは教師の働きかけを介することなく、自然に当の盲児を含めた集団を形成し、すごろくゲームを行っていた。 そこでは、遊びへの参画プロセスにおける障壁を生じさせないよう、いくつかの工夫を組み込む形で遊びのデザインがなされていた。そうした遊びのデザインがどのような実践を通じて成し遂げられているのかを映像データから解明し、相互行為を成立させるに当たって子どもたちが準拠している日常の秩序と、普段用いている独特のコンピテンスの一端を明らかにした。 ここまでの分析から得られた知見の一つは、盲児がすごろくゲームに参加し、それへの関与を維持するためには、「信頼」が欠くべからざる要件になるということである。盲児は、さいころを振ることはできても、出た目を確認することも、その数だけすごろく台紙上のコマを動かすこともできないのだから、基本的な前提として、当該児童がすごろくゲームに参加するに際しては、他者による情報の提供と行為の代行が欠かせない。その意味からすると、たとえば声を出してサイコロを振って出た目を読み上げるという子ども間の共同行為は、盲児がすごろくゲームにアクセスし、参加することを可能にする一つのルートとしても機能していた。今後はよりオーソドックスな教育指導場面に焦点化し、障害児を交えた教室での授業がどのような技法や論理によって構成されているのかを分析していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この度の研究の主たる目的は、障害児と健常児との同一学級処遇を志向する公立小学校での日常的実践をビデオデータの分析を通じて明らかにすることである。そうした考察にあたって分析の素材としたのが、障害児を含む子どもたちが行うすごろくゲームの場面である。そこでの相互行為の展開過程に着眼しながら、当のやりとりが備えている構造や形式、実践方法を分析してきた。 この研究は、学級内部の相互作用の特徴を子ども同士の相互行為の直接的な観察を通じて明らかにしようとするものである。それは、通常学校に在籍する障害児とそれらに関わる多様なアクターたちが織り成してゆく日常的な相互作用/コミュニケーションの解明という、本研究に通底する全体的な研究目的に照らして見た場合、今回は教室場面での相互作用の微視的分析を丹念に行ってきたということになる。そこでは、遊びへの参画プロセスにおける障壁を生じさせないための工夫を組み込む形で活動のデザインがなされていたことが明らかとなった。本研究は教室場面での相互作用、学校組織内部での相互作用、学校とその環境との相互作用、これら三つの水準での人々のやり取りを分析することを研究達成のためのステップとして位置づけている。そうした観点からしてみれば、ここまでの研究では、これら三つのステップのうち、第一段階の研究計画をある程度達成できたということである。
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Strategy for Future Research Activity |
この度の研究では、障害児を含む子ども間のインタラクションを精細に読み解く中から、状況に参与するメンバーに固有の実践方略がローカルな状況の相互的構成を可能にしていることを明示した。今後はよりオーソドックスな教育指導場面に焦点化し、障害児を交えた教室での授業がどのような技法や論理によって構成されているのかを分析していくことにする。授業場面を構成する独特の秩序の様相を緻密に描出していくことこそ、子どもの多様性を包摂しうるインクルーシブな学級秩序を構想し構築するための順路であるにちがいない。 そのうえで、①学校内組織における相互作用、ならびに②外部アクターと学校組織との関係について探究していく。 前者に関しては、職員会議や個別の支援計画のためのケース会議でのコミュニケーション、そこで作成される文書記録にアプローチすることで、障害児に対する教師の認識枠組みや処遇の在り方などを明らかにし、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど他専門職との分業関係を含め、校内の障害児支援の仕組みの構築や運用の仕方を解明することを目指していく。 また、後者については、教材作成に関わる点訳ボランティアとの打ち合わせ場面や通級指導場面への参与観察により、あるいは保護者との間で交わされる連絡帳のドキュメント分析などにより、支援を組織化し、障害児の学校生活への参加を十全に保障するに当たって、外部アクターが果たす役割について探索していく。つまり、ここでの分析により外部アクターとのネゴシエーションを通して、障害児の教育支援に必要となる外部資源を調達するための実践的な方略が明らかとなる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定通りに出張できなかったため次年度への繰り越し金が生じた。 次年度に関東地方での学校調査を予定しており、そのための旅費等として充当することを計画している。
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