2022 Fiscal Year Research-status Report
Study for History of Special Education about Relationship between Children with Disabilities / Diseases and Disaster of Modern Japan in Meiji Period
Project/Area Number |
21K13618
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Research Institution | Shokei Gakuin College |
Principal Investigator |
能田 昴 尚絅学院大学, 総合人間科学系, 講師 (00803917)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 災害救済と教育 / 子ども被災の歴史的実態 / 感染症災害 / スペイン風邪 / 濃尾震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「災害と子ども被災・救済の特別教育史」分野の開拓をめざしながら、そのなかで災害に晒される子どものいのちと発達の問題を考えるため、明治期・大正期を中心に過去の代表的な災害における救済のあり様を、社会的弱者、特に子ども(孤児・障害児者含む)の被災の実態に着目して歴史的検証を行うことを目的としている。 近代国民国家成立期に発生した「濃尾震災」(1891)を対象に、孤児や障害児者を対象とした救済保護の実態、その後の障害児教育保護システムの成立に与えた影響を検討し、研究成果のまとめを行った。 「濃尾震災」(1891)はまさに時代の「子ども存在の軽視、子ども・障害児者など社会的弱者の生命・生存保障という視点の欠落」を縮図的に示したが、それでも救済の営みのなかで、より特別な配慮が必要な存在について着目され、鍼按練習所や孤女学院、長崎慈善会などが誕生した歴史的意義は大きく、そこから発展した教育的営為は日本の障害児教育保護システムの源流として高く評価できる。 また、災害に起因する様々な教育上の「無形ノ損害」を見て取っていた教師が、「有形」のものばかりに復興が集中するなか、社会の意識や救済が子どもたちの将来にわたる「無形ノ損害」に向けられないことに対して鋭く批判しており、現代にも通底するきわめて傾聴に値するものであった。 「災害と子ども」に関わる研究の動向把握も行いながら、昨年度に引き続いて「スペイン風邪」などの感染症災害にも着目した。 具体的には、「スペイン風邪」(1918~1920)のもとでの子どもの感染実態や各種の困難、学校や教師の対応等の諸相について検討した。深刻な感染実態のなかで、蔓延の温床になる側面もありつつ、休校の長期化による義務教育上の支障に関する議論が行われたり、体調の悪い児童を無理に出席させないような配慮をしたり、学びと子どもたちの保護の両立に向けた教育課題が示されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「濃尾震災」に関する研究のまとめと、コロナ禍を受けて取り組んでいる感染症災害問題について、「スペイン風邪」を中心に検討を実施した。 あわせて、COVID-19対応のなかで学校がどのように子どもを保護し、支えるシステムとして役割を果たしているのか、国内外の動向の整理にもあたっている。 引き続き、国内外の災害的事象について確認しながら、「学校」や「教育」の視点を中心に置きながらも、公衆衛生史や学校保健史を含む領域横断的なレビュー・動向把握が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
「スペイン風邪」においては、当時の子どもたちも周囲の多くの人が亡くなっていく事態に心を痛め、パンデミックという一種の巨大災害に対して大きな恐怖・不安を抱えていた。しかし、そうした子どもたちの実態はほとんど注視されることなく、むしろ人手不足・インフラ維持のために子どもたちが使役される事態さえあった。 わずかに残る史資料からは当時の子どもの抱えていた不安・恐怖や困難が垣間見えるが、「みな大変なのだから」という論理がまかりとおる感染症災害のなかで、子どもが「いのち・生活・発達」の危機を抱えるという構造は現代と共通する。歴史的連続性を子細に検討する上でも、「スペイン風邪」パンデミック当事者としての子どもの声・ニーズを歴史的に明らかにする必要がある。 COVID-19対応のなかで学校が子どもを保護し、支えるシステムであることも改めて明らかになってきていることも踏まえて、感染症災害史の中で軽視されがちな学校教育機関が果たした役割や課題、その後の対応の継承・制度化の如何も含めて解明していくことが課題となる。
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