2021 Fiscal Year Research-status Report
リスク情報に対する感応度の個人差の分析:個人に適した情報の提示手法を見据えて
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21K13681
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
長谷 和久 神戸学院大学, 心理学部, 講師 (40828448)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リスク認知 / ハザード / 客観的ニューメラシー / 主観的ニューメラシー / 統計情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハザード(潜在的な危険性を伴う対象)について主観的にどの程度危険性があると評価するかはリスク認知と呼ばれる。これまでの研究により,リスク認知はハザードの客観的な危険性を反映したものではなく,イメージのしやすさやといったハザードの危険性に直接的に関連しない要因によって影響を受けることが明らかにされてきた。ハザードの危険性は否定的な帰結の発生確率,否定的な帰結の深刻度(死亡者数等)をもとに評価することが望まれる。しかし,数字を伴う客観的な情報をもとにハザードの危険性を評価できるかについては個人差があり,数字を伴う情報を理解し使用する能力を指すニューメラシーに着目すべきとの指摘がなされていた (e.g., Reyna et al., 2009)。 以上を踏まえ,個人の客観的・主観的ニューメラシーを測定する複数の尺度に加え,その個人が数字を用いた情報をどれだけ重視するかを測定する項目を用いて,それらの変数が客観的な危険性を反映した個人のリスク認知と関連するかを検討する研究を実施した。研究の参加者はニューメラシーに関する複数の尺度に回答したうえで,6種類のハザード (心疾患,肺炎,胃がん,交通事故,火災,食中毒) の危険性と被害可能性について評価し,さらに各ハザードの危険性の高さについて順位付けを行った。その後,各ハザードがもたらす年間での死亡者数が統計情報として提示され,それを踏まえたうえで改めて危険性と被害可能性,ならびに,危険度の順位付けを行った。 研究の結果,客観的ニューメラシー(確率に関する問題の正答数)と性別が,年間での死亡者数といった統計情報を反映したリスク認知と関連することが示された。詳細には,参加者が男性の場合に,また客観的ニューメラシーが高いほど,統計情報の序数関係と一致するようにハザードの危険性を順位付けられることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者は2021年度に,1. 統計情報を反映したリスク認知を予測する要因の検討,2. 確率情報と結果への感応度を同時に測定するための新たな心理尺度の開発,の2研究を実施する予定であった。このうち,1点目については,ベルリン・ニューメラシー・テスト (Berlin Numeracy Test; BNT; Cokely et al., 2012),記号・数値マッピング (Symbolic-Number Mapping; SNM; Petrova et al., 2019),主観的ニューメラシー尺度 (Subjective Numeracy Scale; SNS; Fagerlin et al., 2007) ならびに独自に作成した数値情報への焦点化の個人差を測定する尺度を用いた上で研究を完遂した。2点目の研究については,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により実験室実験が実施できなかったこと,ならびに参加者の募集の機会が限定されたために実施できなかった。 しかしながら,Qualtrics等を用いてWEB上で実験を実施するための準備を進めており,2021年度に予定していた研究を実験室ではなくオンライン上で実施できる環境の構築を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
ハザードがもたらす否定的な帰結の発生確率と被害の深刻度の変化に対する感応度の個人差を測定する尺度の開発を行う。加えて,そうした数値情報への感応度の個人差に応じた効果的なハザード関連情報の提示手法を明確にする実験的研究を実施する。 後者の研究については,個人のニューメラシーや数字情報への焦点化の程度,ならびに,数字情報が変化した場合の感応度を測定したうえで,個人に応じた効果的な情報の提示手法について検討を行う。ニューメラシーが高く,また数字の変化に関する感応度の高い個人に対しては数字を伴う統計情報の提示により客観的なハザードの危険性を伝える方法が効果的だと考えられるが,ニューメラシーや数字の変化に対する感応度が低い個人に対しては,ピクトグラム等を用いてハザードがもたらす危険性の規模について視覚的に説明することが効果的だと思われる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の継続により予定していた実験室実験が実施できなかったこと,ならびに実験の参加者数を確保できかったことが主な理由である。今後もCOVID-19による影響は継続するものと考え,当初実験室での実施を予定していた研究をオンライン上で実施する。このため,次年度使用額(B-A)については,オンライン上での実験プログラムの構築および参加者への謝礼として使用する。以上に加え,2021年度に実施した研究の学会発表,ならびに,論文投稿を予定しているため,学会発表の際の旅費,論文投稿の際の英文校閲費用に充当する予定である。
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Research Products
(2 results)