2022 Fiscal Year Research-status Report
再犯防止に向けた多職種連携のためのリスクコミュニケーション指針の策定
Project/Area Number |
21K13705
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
高橋 哲 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (10886914)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | リスクアセスメント / 犯罪・非行 / リスクコミュニケーション / リスク認知 / 再犯リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,一般市民が犯罪者の犯行の累行性に対して抱くイメージと公式統計データとの隔たりを明らかにすることであった。第一に,予備調査として関東圏の2校に通う女子大学生280名を対象に調査を実施した結果,罪名によって推定再入率に大きな幅があり,公式統計データとの比較から再犯リスクの推定が比較的正確なものもあれば,過大に推定されているものもあることが示された。特に,性犯罪と薬物犯罪に関して再犯リスクの上方見積もりが大きかった。第二に,年代・世代別の影響も検討するためWEB調査により400名(男性200名,女性200名)に同様の調査を実施したところ,予備調査と同様に性犯罪および薬物犯罪において過大な推定が生じており,中でも性犯罪における再入見積もりの過大さが際立っていた。また,年齢層別では,いずれの罪名でも40歳代または50歳代が高い数値を示す一方で,若年層においては相対的に定再入率が低い傾向が示された。人々が各罪名の犯罪者に抱いている典型的なイメージやその他の要因により再犯リスクの推定が左右されている可能性が示唆された。 犯罪という不確実な事象に対して一般市民が正確なリスク認知を形成することは容易ではないものの,犯罪者の実像への誤った認識が,世論形成等を介して再犯率の低減に効果のない刑事政策の推進につながり得ることが指摘されている。刑事司法の専門家でない人々が再犯リスクについてどのような認識を抱いているか,それらが実態とどのように異なるのかを明らかにすることは,犯罪者の再犯リスクを軽視したり,逆に,彼らを「モンスター」と捉えて必要以上に排除したりすることなく,犯罪者の再犯防止・社会への再統合に向けた施策について,専門家と一般市民とで共に検討していく上での基礎資料となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の研究計画は,初年度調査で得られた一般市民を対象とした再犯リスク認知の把握のための質問紙調査の結果について学術大会で発表することであった。また,当該本調査に先立ち,二つの大学において女子大学生を対象に予備調査を実施した結果について学術雑誌(リスク学研究)に投稿していたところ,査読を経て公刊された。データは既に得られていることから,今後研究成果を公表していくことが可能な状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,初年度調査の結果得られた研究成果のうち,データの未使用部分についてアメリカ犯罪学会で発表するとともに,投稿論文の執筆に取り組む予定である。年度の後半には,シナリオを用いた質問紙実験の実施を計画している。今後さらに重層的なデータを集め,再犯リスク認知の特徴についての多面的に検討していくとともに,研究成果を踏まえて再犯に関するリスクコミュニケーションの指針についての提案を含む展望論文に着手する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては,当初,新たな調査を実施する予定として予算を計上していたところ,初年度に得られたデータの学会発表や投稿論文の執筆を優先させ,その結果を踏まえたほうが望ましいと判断したため,調査を次年度に実施することとしたもの。 次年度においては,新たな調査を実施するとともに,これまでの研究成果をアメリカ犯罪学会において発表する予定であり,次年度繰り越し分と当初から想定していた渡航費を含めた予算額の双方が必要である。
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Research Products
(3 results)