2023 Fiscal Year Research-status Report
再犯防止に向けた多職種連携のためのリスクコミュニケーション指針の策定
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21K13705
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
高橋 哲 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (10886914)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | リスクアセスメント / 犯罪・非行 / リスクコミュニケーション / リスク認知 |
Outline of Annual Research Achievements |
刑事司法の専門家でない人々が再犯リスクについてどのような認識を抱いているか,それらが実態とどのように異なるのかを明らかにすることは,犯罪者の再犯リスクを軽視したり,逆に,彼らを「モンスター」と捉えて必要以上に排除したりすることなく,犯罪者の再犯防止・社会への再統合に向けた施策について,専門家と一般市民とで共に検討していく上で有用である。本研究の目的は,一般市民が犯罪者の犯行の累行性に対して抱くイメージと公式統計データとの隔たりを明らかにすることであり,令和5年度の研究では,性犯罪者の再犯リスクに関する一般市民の推定に焦点を当て,その推定が,日本全国における一定期間の出所した性犯罪者全員の再犯率であるベースレート情報の提示によってどのような影響を受けるかを検討することにあった。参加者は犯罪白書によるベースレートデータの提示を受ける実験群とそうした提示を受けない対照群のいずれかに割り付けられ,性犯罪者の出所後の再犯率を犯罪白書の定義に沿うかたちで推定するよう求められた。その結果,対照群で54.4,実験群で33.8と両群に有意差が認められた。しかしながら,ベースレート情報を提示された実験群の平均推定率でさえ,当該期間における再犯率の実測値よりはるかに高いという結果が得られた。また,重回帰分析の結果,犯罪に対する懲罰的態度と推計に対する自信が再犯リスクの推定値の上昇に有意に寄与した一方で,性別,年齢,犯罪への恐怖は有意ではなかった。一般市民は性犯罪者の再犯率を過大評価していること,そして再犯に関するベースレートを示すことは推定率の低下に影響を与えるものの,それでも実測値からの乖離は大きく,リスクコミュニケーションを行う上で検討を要することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度の研究計画は,初年度の調査で得られた成果のうち,一般市民による性犯罪者の再犯リスク推定に関する投稿論文の執筆に取り組むことであったが,英文雑誌に論文が1本受理された。同年度に予定していたアメリカ犯罪学会での発表は英語論文の執筆を優先させて見送った。今後の執筆に必要なデータは既に得られていることから,さらなる研究成果を公表していくことが可能な状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,一般市民の再犯リスク推定に関する結果について英文雑誌に投稿する予定である。年度の後半には,昨年度実施ができなかったシナリオを用いた質問紙実験の実施を計画している。今後さらに重層的なデータを集め,再犯リスク認知の特徴についての多面的に検討していくとともに,研究成果を踏まえて再犯に関するリスクコミュニケーションの指針についての提案を含む展望論文に着手する予定である。
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Causes of Carryover |
シナリオを用いた質問紙実験の実施を計画していたものの,既に得たデータでの論文執筆を優先したため,十分な研究計画を練ることができず,実施を見送った。当該研究に費やす予定であった額を次年度使用額に充当し,年度前半で研究計画の立案・精緻化,所属機関に対する倫理審査申請を行い,年度後半においてウェブ調査会社に委託して調査を実施する予定である。
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