2021 Fiscal Year Research-status Report
不安症に対する曝露法の最適化:自然言語処理解析による治療プロセスと作用機序の検討
Project/Area Number |
21K13721
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
山口 慶子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 認知行動療法センター, リサーチフェロー (50793569)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 臨床心理学 / 心理療法 / 人工知能 / 自然言語処理 / 不安症 / 曝露療法 / 治療効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、若手研究(B)「不安症に対する曝露法の治療プロセス:課題分析による検討」(17K13954)で取り組んできた研究を発展させた研究である。目的は、不安症患者の曝露面接場面の言語データを対象に、最新の人工知能技術を適用することで、曝露法の治療プロセスを明らかにすることである。上記の若手研究(B)では、過去40年分の関連論文に自然言語処理の一種であるトピックモデルを適用し、論文要旨のテキストデータから潜在トピックを抽出した。そこでは、曝露療法の研究は理論や治療効果の検討がほとんどである一方で、不安症患者を対象として曝露法を実施する臨床場面のデータを用いた研究が欠如している問題が明らかとなった。 本研究課題では、曝露面接場面の言語データを対象に、最新の人工知能技術を適用し、曝露療法の効果が発揮される必須の要素を解明するための研究を実施していく。本年度は研究の土台を整備した。まず、関連文献から研究動向を探り、焦点を当てるべき検討課題を整理した。それに続き、当初の計画では、面接場面のデータに自然言語処理モデルを適用し、曝露法の治療プロセスに関する予測モデルの生成に着手する予定であった。しかし、作業を進める過程で、解析する面接場面のデータに関してさまざまな考慮すべき点(事例選定の基準や対象とするデータの種類など)を精査する必要が生じた。そしてこれらの検討には、本研究で採用する方法論の選択が大きく関わっていたことから、本年度は人工知能技術を心理療法データに適用し新しい領域の開拓を目指す研究プロジェクトに参加するなかで、オントロジー工学、ネットワーク解析、音響解析、自然言語処理の各研究手法を用いた研究の進め方の実際について研鑽を積むことに軌道修正した。 本年度の研究成果として、曝露療法の作用機序に関連し、精神病理と感情調整に関する一つの章を分担執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記のように、当初は検討課題を整理した上で、対象事例の面接場面のデータに自然言語処理を適用して解析することにより、不安症に対する曝露療法の最適化に関して、仮説モデルを生成する計画であった。しかし、検討課題の整理と、対象事例および解析対象データの種類の選定、解析アプローチの学習および検討に、予定していたより大幅に時間を費やした。以上から、当初予定していた計画に照らし、やや遅れている進捗状況であると評価したが、感情制御に関する書籍にて精神病理と感情調整に関する章を共同執筆し(伊藤・藤里・山口,2022)、本研究を進めていく上で重要な示唆が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
検討課題の整理に基づき、曝露場面のデータの解析手法の検討を着実に進める。当初の予定では、心理療法の一次データに基づく仮説モデルを生成することにより、不安症に対する曝露療法の最適化のための治療プロセスを検証する予定であった。しかし、研究アプローチを再度検討するとともに、解析対象とするデータを詳細に調べ選定する必要が生じた。それに伴い、当初の計画を見直し、今後はまず検討課題を整理した成果発表を行う。次に、曝露場面のデータの選定や解析手法を定めたうえで一次データの解析を行い、既存の調査データの二次解析という異なる視点を組み合わせ、仮説モデルの生成を進める。使用するデータおよび解析の方向性が固まった段階で、既存の臨床試験のデータの利活用に関して、倫理委員会に諮る予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、本年度中に曝露場面のデータの解析を開始する予定であった。しかし、当初の計画を見直す必要が生じ、データ解析に着手する前段階として、データの選定や人工知能技術のさまざまな研究手法を用いた研究の進め方の実際について研鑽を積むことに費やしたために、遅れが生じた。そのため、面接データの解析に必要な諸経費(主に人件費・謝金)の支出が予定より少なかった。加えて、研修参加を予定していた複数の学術集会は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため現地開催からWeb開催へ変更となったため、学術集会参加に係る旅費や資料印刷費の支出がなかった。来年度は、論文執筆のための文献管理ソフト購入費、論文公表のための英文校正費や成果発表の旅費、データ解析や資料整理に係るパソコン購入費や研究補助の人件費として支出を予定している。
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