2021 Fiscal Year Research-status Report
心理・社会的ストレスへの感受性を制御する脳内メカニズムのマルチスケール解析
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21K13749
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂井 祐介 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任助教 (40843066)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ストレス / うつ病 / エピゲノム / カルシウムシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、心理・社会ストレスに対する感受性制御の脳内メカニズムをエピゲノム・分子・細胞・行動のマルチスケール解析により解明することである。私が開発した任意のカルシウムカルモデュリン依存性キナーゼ(Camk2b)遺伝子領域のエピジェネティクス異常を修復させることが可能なエピゲノム編集技術を用いて、ストレス感受性マウスにおけるエピゲノム異常の修復が分子→細胞→行動レベルといった上位階層に及ぼす影響をマルチスケールで検討した。ストレス脆弱性を有する個体がエピゲノム編集によりストレス耐性を獲得すること、ならびにそのメカニズムを検証した。本年度の成果として、dSaCas9にm6dAメチル基転移酵素(N6amt)を融合したdSaCas9-N6amtタンパク質発現マウスを作出し、このマウスの腹側海馬内にCamk2bプローモーター上の特定の領域を認識するガイドRNAを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を投与した。このウイルスを投与したBALBマウスに心理・社会ストレス(社会性敗北ストレス)を負荷し、脳内Camk2b遺伝子発現量を検討することでdSaCas9-N6amtの効果を確認した。また、不安レベル・社会行動・アンヘドニア・意欲等の行動学的解析を行うことでストレスレジリエンスを獲得したかを検証した。本実験により、特定のゲノム領域を狙ったDNAメチル化修飾(m6dA)の操作が可能となることが示され、Camk2b遺伝子のエピゲノム変容がストレス誘発性の行動変容を引き起こすことを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はストレス感受性マウスにおいて、カルシウム・カルモデュリン依存性キナーゼIIβ遺伝子(Camk2b)の発現低下とこの遺伝子上のDNAメチル化修飾(N6-methyl-2'-deoxyadenosine [m6dA] )の異常を見出し、m6dAを選択的に操作可能なエピゲノム編集技術を開発した。この技術を用いて、Camk2b遺伝子上のDNAメチル化修飾を増大させたマウスの細胞レベル(シナプスAMPA受容体局在、神経活動)・行動レベル(ストレス対処行動)への影響を検討し、エピゲノム修飾と行動レベルの因果性を検証できた。このような階層をまたいだアプローチにより、ストレス性精神疾患の構成的理解につなげるといった目標に近づいた。これらの成果は当該年度の目標であり、研究は予定通り順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、ストレス感受性制御に関わる候補遺伝子Camk2bのエピゲノム編集操作を行った際に表出する細胞・行動レベル(ストレス対処行動)への影響の解析を重点的に行う。 上記分子技術を用いたCamk2bのエピゲノム操作によるAMPA受容体局在に対する影響を検討する。ストレス負荷マウスはシナプス膜上のAMPA受容体発現量が低下するが、m6dAエピゲノム操作によりこのAMPA受容体異常をブロックすることができるかを検討する。また、上記分子技術を用いたCamk2bのエピゲノム操作による神経細胞スパインに対する影響を検討する。ストレス負荷マウスはスパイン密度低下を示すが、m6dAエピゲノム操作により構造的可塑性異常をブロックすることができるかを検討する。 本実験の特定のゲノム領域を狙ったDNAメチル化修飾(m6dA)の操作がその上位階層(細胞レベル)に及ぼす影響が明らかとなり、ストレス感受性制御の構成的理解につながる。これまで不明であった心理ストレス反応に対するエピゲノム修飾の直接的な役割と行動との因果関係を明らかにする。ストレスレジリエンスの獲得や抗うつ作用を発揮することのできる制御法の開発により、心理・社会ストレスに起因する精神疾患の構成的理解ならびに新たな治療法の確立につなげる。
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Research Products
(1 results)