2022 Fiscal Year Research-status Report
正標数代数多様体の射影構造に関する新たな幾何学への展開
Project/Area Number |
21K13770
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
若林 泰央 大阪大学, 大学院情報科学研究科, 准教授 (80765397)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | モジュライ空間 / 正標数 / 代数曲線 / 標準的持ち上げ / oper |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究課題の中心的対象であるFrobenius射影構造は,標数p>0の代数多様体上で定義される然るべき平坦主束であり,底空間が代数曲線の場合にdormant PGL(2)-operと呼ばれる対象と同値である.PGL(2)-operおよびその高階数版であるPGL(n)-operにおけるdormancy conditionは,対応する線形常微分方程式の解の代数性と密接に結びついている.標数0の代数曲線とその法p還元の上でそれぞれ定まるoperや線形常微分方程式の解の代数性の繋がりを理解することは,Grothendieck-Katz予想に関連する研究をはじめとして様々な関心が寄せられている. そこで当該年度では,標数pのhigher-level dormant operを分類するモジュライ空間の基礎理論を展開し,p冪標数のoperとの数論的観点に基づく対応関係を明らかにした.具体的には,標数pの点付き安定曲線上のhigher-level dormant PGL(n)-operを分類するコンパクトモジュライ空間を構成し,関連する様々な幾何的性質(平滑性,n=2における生成的エタール性など)を示した.これらは,p進タイヒミュラー理論のなかで明らかにされた様々な事実の一般化と捉えられるものである.そして然るべき複体のコホモロジー群による変形空間の計算を適用することにより,dormant PGL(2)-operのp冪標数への標準的持ち上げ(対角持ち上げ)を構成した. また,別の研究では,ガウス写像から生じるhigher-level dormant PGL(2)-operに関する研究を行なった.その結果,今までほとんど知られていなかった具体例を(任意のlevelにおいて)得ることができた. 以上の成果は論文(arXiv: 2209.08526, 2209.08528)にまとめられている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度中に得た「(点付き安定曲線上の)higher-level dormant PGL(n)-operのモジュライ空間に関する基礎理論」と「標数pのhigher-level dormant operと標数p冪のdormant operとの対応(対角持ち上げ/還元)」は当研究の重要性を高める成果であり,大きな進展だったといえる.とくに,後者の対応を具体的に構成したことは当研究課題開始時の想定以上の成果であり,「levelを上げると(Frobenius射影構造を持つ代数多様体の分類や階数に関する条件に関して)標数0の状況に近くなるのはなぜか/どのような原理によって説明されるべきか」という元々抱いていた疑問に対する明確な視座を得ることができた.同時に,(標数pの)higher-level dormant operのモジュライ空間は位相的場の理論や変形空間を記述するという観点で(p冪標数より)扱いやすいため,対角持ち上げ/還元によってp冪標数や混標数のoperおよび線形常微分方程式の様子を理解するうえで大変有効な方法を確立することができた. また,当研究課題の初年度に完成した論文"Frobenius-Ehresmann structures and Cartan geometries in positive characteristic"が当該年度中にアクセプト(出版は5月)されたことからも,順調に進捗しているといえる状況にある.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は(少なくとも)以下2点に関する研究を予定している. 1点目は,当該年度の研究をさらに推し進め,higher-levelおよび標数p冪のdormant PGL(n)-operに関する数え上げ幾何学を展開するための枠組み(位相的場の理論)を構築することに取り組む.当面はn=2の場合を中心に進めていく予定である.その際に最も核心部分となる課題は,3点付き射影直線上のhigher-level dormant PGL(2)-operがその標点における半径によってどのように分類されるのかを,超幾何関数を用いて明示的に記述することである.そのような記述を用いて,(先行研究の拡張となる)標数p冪のdormant PGL(2)-operの個数を明示的に与える公式を証明することを目標としている. 2点目として,数体上の代数曲線で定義されるoperの数論的性質に関する研究に取り組むことを計画している.この研究では,これまでの研究で深めたdormant operについての理解を適用することにより,解が代数的なoperや線形常微分方程式をモノドロミーや大域的収束半径の観点(G接続の理論)から調べる.とくに,モジュライ空間のなかでの分布の様子を記述することを目標としている.
|
Causes of Carryover |
コロナ禍以降,国内外で開催される多くの研究集会がオンラインでも参加可能となり,現地に行くための旅費などの計画が申請当初とは異なるものになった.また,所属機関の変更に伴い,研究者との研究打ち合わせのための長距離移動にかかる旅費の必要性についても変更があった.ただし,研究課題について当初の想定以上に順調に進捗している部分があり,より深く研究を推し進めるために,必要な専門書籍を追加で購入する必要が生じている.旅費として使用しなかった分については,それらの書籍の購入費用に充てる予定である.
|