2021 Fiscal Year Research-status Report
多変数保型関数の数論幾何的研究とそのPicard数極大曲面への応用
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21K13779
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
平川 義之輔 東京理科大学, 理工学部数学科, 助教 (30896783)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Picard数極大曲面 / 多変数保型関数 / 周期 / 志村多様体 / 超幾何曲線 / Mordell-Weil群 / イデアル類群 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、種数の小さなMoonen曲線族に対して、曲線の周期から曲線及び得られるn次曲面の定義方程式を復元する手法について調べた。前提として、種数2の場合はMestre (1990) による制限付きの手法が知られていたが、Picard数極大曲面のような「特殊な」多様体の研究には不向きであることが当初からの問題点の1つだった。これに対して、最近のMalmendier-Shaska (2017) の手法が本研究において有効であることが分かった。次年度は、この手法に井草のj-不変量 (3変数保型関数) の数論的性質を組み合わせることで、Picard数極大5次曲面の新たな族の構成を試みる予定である。 また、当初想定していなかった方面での進展として、超幾何曲線族から非特異n次曲面族を構成できることが分かった。Moonen曲線と超幾何曲線は共に楕円曲線の一般化であるが、本研究 (周期の研究) においては、双方の長所・短所が上手く補い合っている点が重要である。今後はMoonen曲線族と超幾何曲線族を両輪として研究を推進し、一方で得られた成果を他方に応用することで、より確実に研究成果を得られると期待している。 最後に、当初想定していなかった方面でのもう1つの進展として、「代数曲面のPicard群」の数論的 (数論幾何的) 類似物とみなせる「代数体のイデアル類群」や「楕円曲線のMordell-Weil群」という不変量についても、研究が進展した。具体的には、臺信直人氏 (慶應義塾大) と松村英樹氏 (慶應義塾大) の両氏との共同研究において、虚数乗法を持つ楕円曲線族のMordell-Weil群の大きさをその等分体のイデアル類群の大きさで上から評価する不等式を確立した。これは、既知の結果を部分的に改善しているだけでなく、証明に解析数論の手法を用いている点で興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、当初の予定では、研究補助を任せる学生アルバイトを雇用する予定であったが、適当な人材を見つけられなかったためその分進捗が遅れてしまった。 また、当初の予定では、まずはMoonen曲線族から得られるn次曲面族の分類に専念し、その目的に限定して全てのMoonen曲線族を調べ上げることを今年度の目標としていた。しかし、種数2の曲線は全てMoonen曲線であるという (種数1と2に特有の) 特殊事情により、この場合はPicard数極大5次曲面族を豊富に構成できそうだという感触を得た。そのため、1つ目の課題 (Picard数極大曲面族の構成) についての研究計画を再検討した結果進捗が遅れたが、Picard数極大5次曲面族の構成については大幅に理解が進んだと考えている。 一方で、超幾何曲線由来のPicard数極大曲面の発見や、楕円曲線のMordell-Weil群と等分体のイデアル類群の相互関係に関する発見など、当初は予定していなかった発見もあった。これらの発見が当初の目標達成を一層確実なものとしてくれるであろうという期待はあるものの、全体としては「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず種数2の代数曲線族に対して、Malmendier-Shaska (2017) の手法に井草のj-不変量 (3変数保型関数) の数論的性質を組み合わせることで、Picard数極大曲面族の構成を試みる予定である。また、Malmendier-Shaskaの手法に習熟する過程で高種数のMoonen曲線への一般化が可能と判断できた場合、その実現も試みる。 一方で、超幾何曲線族を用いた新たな構成についても、今後数年をかけて考察を進めていきたいと考えている。これは、1つ目の研究課題 (Picard数極大曲面族の構成) に対して、当初の予想以上の進展を与え得ると期待している。従って、この方針の妥当性を判断できた場合には、本研究の2つ目の研究課題 (Picard数極大曲面族の有限性) についての計画を先送りしてでも、優先して取り組む予定である。 最後に、楕円曲線のMordell-Weil群と等分体のイデアル類群の相互関係に関する共同研究については、既に論文の草稿が完成している。今後は論文の投稿・学会発表を通じて成果を公表する予定である。尚、共同研究自体は続行しており、順調である。続編が完成次第、順次、論文・学会発表を通じて成果を公表する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、研究補助を任せる学生アルバイトを雇用する予定であったが、適当な人材を見つけられなかったためその分進捗が遅れてしまった。次年度は、その遅れを取り戻すためにも学生アルバイトに任せる業務を増やし、当初の予定よりも多くの人員・人件費を割くことを検討している。 尚、当初の予定通り書籍も購入予定であるため、前年度未使用額を次年度使用額に繰り越したいと考えている。
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