2022 Fiscal Year Research-status Report
写像の特異点論における,ジェネリシティーの先駆的研究
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21K13786
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
一木 俊助 東京工業大学, 情報理工学院, 助教 (80836346)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 特異点論 / 横断性定理 / 安定写像 / 多目的最適化 / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画の土台となるハウスドルフ測度という新たな観点における横断性定理の論文が,The Journal of Geometric Analysisから出版された.その応用について執筆した論文は,現在査読中であり,それには特異点論をはじめ最適化への応用も含まれる.また,2021年度に写像空間内における安定写像の稠密性問題に関して,定義域多様体が非コンパクトな場合は,いつでも安定写像は非稠密であることを証明したが,2022年度は,より強く,位相的安定写像についても定義域多様体が非コンパクトな場合は,いつでも非稠密であることを示した.この方面での先行研究としては,1973年にジョン・マザーが,固有写像に限った写像空間内において位相的安定写像は稠密に存在することを示し,従って,定義域多様体がコンパクトな場合は,位相的安定写像はいつでも稠密に存在することは分かっている. 申請者の本結果は,この歴史ある重要な結果に一石を投じるものであり,本結果とマザーの結果を合わせることにより,写像空間全体において,位相的安定写像が稠密に存在することと,定義域多様体がコンパクトであることが実は同値であったことも分かった.すなわち,副産物として,写像空間全体における位相的安定写像の稠密性の特徴付けも得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記載した位相的安定写像の稠密性問題は,ルネ・トムが提出し,1973年にジョン・マザーが固有写像に限った写像空間内においては稠密であることを示した歴史ある重要な問題である.本年度,この問題に一石を投じる結果を導き,マザーの結果と合わせることで,位相的安定写像の写像空間全体における稠密性の特徴付けを与えられたことは,大きな前進であった.本結果をまとめた論文(arXiv:2301.01553)は現在投稿中である. 他方,ハウスドルフ測度の観点からの土台となる横断性定理の論文は受理され引用しやすくなったものの,2022年度は,その方面では大きな進展はなかった.そのため,特異点論という大きな枠組みでみれば研究は確実に進展しているが,本研究課題においては,やや遅れていると判断した. 総じて2022年度は,別テーマだが非常に重要な位相的安定写像の問題に取り組んでいたことや,集合と位相の教科書(梅原雅顕, 一木俊助, これからの集合と位相, 裳華房, 2022年11月発行)の執筆に優先的に取り組んでいたため,本研究課題の進捗としては少し遅れてしまったが,2023年度は本研究課題においても重要な結果を出せるよう努力していきたい.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の基本的な道具となる論文(S. Ichiki, A refined version of parametric transversality theorems, Journal of Geometric Analysis, 32 (2022), no. 9, Paper No. 234, 14 pp.)の主結果を,可微分性の観点からさらに拡張できる可能性が高いことが分かったため,2023年度はそれを優先的に行う. また余裕があれば,ジェネリシティーの先駆的研究として,ジェット横断性定理に関連する次の課題を加える.「トムのジェット横断性定理」や,その多重バージョンである「マザーの多重横断性定理」は,“写像空間全体”においてジェネリックな可微分写像の性質を調べるための道具である.これらの道具とその周辺の理論により,例えば,可微分関数全体においてモース関数はジェネリックに存在することや,コンパクトn次元多様体から2n+1次元多様体へのジェネリックな写像は埋め込みであることなどが分かる.では,「ジェネリックな部分以外の痩せた部分集合内はどうなっているのか?」という疑問が湧き上がる.そこで,痩せた部分内でのジェネリックな写像を調べるための道具,すなわち,部分空間を調べるためのジェット横断性定理を開発し,それを用いて,様々な部分空間におけるジェネリックな写像の性質を調べていく.
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