2021 Fiscal Year Research-status Report
Isometries on Banach algebras
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21K13804
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大井 志穂 新潟大学, 自然科学系, 助教 (90891789)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 等距離写像 / Banach環 / Jordan*同型写像 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,単位的C*環に値をとるリプシッツ環の間の複素線形等距離写像について研究した。先行研究として,有限次元単位的C*環に値をとるリプシッツ環の間の複素線形等距離写像についてはすでに知られていたが,それを無限次元C*環に値をとるリプシッツ環の間の複素線形等距離写像へ拡張した。単位的C*環が無限次元の場合は,複素数値リプシッツ環と単位的C*環の代数的テンソル積が,単位的C*環に値をとるリプシッツ環の真部分空間となる。よって,単位的C*環に値をとるリプシッツ環の元を代数的テンソル積の元で近似することができない。このことが,無限次元ベクトル空間の難しさであったが,ノルム空間において古典的な概念として知られているT-集合をセミノルム空間においても適用できるように拡張して定義した。それを用いて双対空間の単位球を考察することで,単位的因子C*環に値をとるリプシッツ環の間の単位的複素線形等距離写像の特徴づけを与えた。結果として,単位的因子C*環に値をとるリプシッツ環の間の複素線形等距離写像は,C*環の間のJordan*同型写像と距離空間の間の等距離写像の合成作用素であることが分かった。 そこで次に,C*環に値をとる連続関数のなすバナッハ環とC*環に値をとるリプシッツ環の間のJordan*同型写像に関する研究を行った。Jordan*同型写像は,C*環の既約表現を通して,荷重合成作用素で表されることが分かった。これは,既に知られている結果の一般化となっており,今までは固有のC*環に対して得られていた特徴づけを,任意のC*環で成り立つ統一的な結果を得た。 また,バナッハ環の単位球面の間の全射等距離写像が,全体に拡張されるか?というTingley問題について,羽鳥理氏,冨樫瑠美氏と共同で関数環の場合を肯定的に解決した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
C*環に値をとるリプシッツ環の間の単位的全射等距離写像の研究は先行研究を引き継いで,C*環が単位的因子C*環である場合に,無限次元化することができた。とくに,エルミート作用素を用いた等距離写像の研究は等距離写像の研究においては特異なアプローチであり,一定の成果を上げることができたと思う。 一方,課題としては大きく二つある。一つ目は,因子C*環ではないC*環に対して,そのC*環に値をとるリプシッツ環の単位的全射等距離写像を決定するということである。単位的因子C*環以外のC*環で,そのC*環に値をとるリプシッツ環の間の全射等距離写像の決定ができるC*環の具体例をまず見つける必要がある。また二つ目の課題は,単位的とは限らない全射複素線形等距離写像については結論を得ることができていないということである。全射等距離写像の単位元を行き先をどのように決定できるのか,よく分かっていない。 また,Jordan*同型写像の研究より結果として,単位的C*環に値をとる連続関数のなすバナッハ環の間の全射複素線形等距離写像や全射複素線形順序保存写像がC*環の既約表現を用いると荷重合成作用素になることが分かった。これは,今までの研究に対して,新たな視点を与えることができたと思う。一方で,完全に写像を特徴づけることは,単位的C*環に,primitive という条件を仮定したときのみしか分かっておらず,他のC*環に対する特徴づけは得られていない。 今年度は,新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,出席を予定していた研究集会がオンライン開催になったり,延期,中止となったりした。そのため,当初予定していた旅費が支出できなかった。以上の点からやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の動機は,一様ノルムや作用素ノルムとは異なるノルム構造を持つバナッハ環の間の全射等距離写像も,積の構造,もしくはJordan積の構造を保存するのかどうか?である。その手掛かりとして単位的C*環に値をとるリプシッツ環の間の単位的全射等距離写像を研究してきた。単位的因子C*環やprimitive C*環の場合はある程度分かってきたので,これを広げていきたい。そのためにprimitiveや因子環ではないが,等距離写像を決定するには性質の良いC*環の例をまず見つける。そして,その間の全射等距離写像の様子を調べ,また特徴づけをすることで研究を進める。 一方で,単位的とは限らない全射等距離写像の決定を考察することに関しては,かなり難しいことが分かってきた。特にリプシッツ環の単位球は大変複雑であり,その計算にはまだ一切手を付けられていない。そのためまずは,リプシッツ環以外の,C*環のノルムではないノルム構造を持つバナッハ環の例に対して,単位的とは限らない全射複素線形等距離写像の特徴づけを与えることが目標である。それを手がかりとして,バナッハ環の間の等距離写像が積の構造に言及する様子を調べていく。 また,Jordan*同型写像,順序保存写像,直交関係を保存する写像など,積に関する構造を保存する写像の研究を進めることで,等距離写像と積の構造の関係について調べることも可能である。様々なバナッハ環に対して,積やJordan積などの種々の積の構造を保存する写像に関する研究を行っていく。
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Causes of Carryover |
年度当初に資質を予定していた旅費が,新型コロナウイルス感染症のため出張が中止され支出されなかったことにより,次年度使用額が生じた。文献購入のための物品費や研究交流のための旅費として支出を計画している。
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