2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K13852
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 達彦 東京大学, 物性研究所, 助教 (60780583)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 量子多体系 / 周期駆動系 / 開放量子系 / 非平衡定常状態 / 量子スピン系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、散逸の下にある周期駆動量子系における非平衡定常状態を求める理論の定式化に取り組んだ。レーザーなどにより物理系を時間周期的に駆動し、物理系の有用な性質や機能性を人工的に作り出す 「フロケ(Floquet)・エンジニアリング」が注目されており、これを固体物質で避けられない散逸の存在下において実現するための指針設計への寄与を目的とした。 本研究では、GKSL方程式と呼ばれる散逸量子系の基礎方程式の範囲内において、非平衡定常状態を高周波展開で系統的に求める理論を定式化した。高周波展開とは、駆動周波数の逆数についての摂動展開であり、系の周波数スケールよりも駆動周波数が十分大きい場合に特に有用になる。この理論の利点は、時間発展方程式を直接解くことなしに非平衡定常状態が得られる点である。 この理論を用いて非平衡定常状態の一般的な表式を考察し、Floquet-Gibbs状態(Gibbs状態のフロケ有効ハミルトニアンへの一般化)が現れる条件を見出した。散逸をもたらす熱浴のスペクトル幅と駆動周波数の大小が重要となり、駆動周波数の方が十分高い領域においてFloquet-Gibbs状態が現れる。これは駆動のエネルギーが熱浴に吸収されず散逸と駆動の相互の影響が極めて単純化されるために起こる。一般の周波数では非平衡定常状態はFloquet-Gibbs状態からは外れる。 またこの高周波展開理論を3つの具体例(ダイヤモンドの窒素空孔中心、境界散逸下のスピン鎖、バルク散逸下の円偏光磁場中ハイゼンベルクスピン鎖)に適用し、高周波展開理論の有効性を示した。この中でハイゼンベルクスピン鎖において磁化が誘起される(逆ファラデー効果)という結果は散逸がフロケエンジニアリングを補助する結果を示しており応用上も重要である。散逸がハイゼンベルクスピン鎖のスピン回転対称性を壊すことが重要な役割を果たしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の計画を実行することが出来た。また、Floquet-GIbbs状態の成立条件についての理解、散逸がフロケエンジニアリングを補助する機構が得られたことは期待以上の成果であった。 さらに孤立多体系において周期駆動による加熱速度についての成果も得られ、これは当初次年度以降に予定していた内容の一部が前倒しで得られたことになる。 加えて、高次高調波発生や離散時間結晶についての関連する成果も得られたことを考慮すると、現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度主に取り組んだのは少数自由度系や可積分系など、フロケ加熱が深刻な問題にならない系であった。来年度は一般の非可積分系において加熱と散逸のバランスで生じる定常状態を研究する。Lindblad方程式のunfoldingして確率シュレーディンガー方程式として解析するプログラムを構築し、多数のCPUを用いた大規模並列計算を実行する。また、非平衡定常状態の解析と平行して光物性の現象の提案や解析など、実際の実験へ理論を適用する可能性も模索する。
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Research Products
(13 results)