2021 Fiscal Year Research-status Report
空間反転対称性の破れたワイル半金属における非線形テラヘルツ応答の解明
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21K13858
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松田 拓也 東京大学, 物性研究所, 特別研究員 (30881239)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ワイル半金属 / テラヘルツ分光 / 非線形応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
空間反転対称性の破れたワイル半金属として高い易動度を有する遷移金属ダイカルコゲナイドWTe2を対象とした。当該年度は室温におけるテラヘルツ帯線形・非線形応答を調べた。 1)WTe2の非線形応答を精査する前に、まず測定試料の線形応答を調べた。WTe2を機械剥離することで十分に薄くし、試料の厚みを白色干渉計により評価した。透過測定からテラヘルツ帯の応答を調べたところ、エネルギー透過率に特異な厚み依存性があることがわかった。これは厚さ方向に対して均一ではない、バルクと表面で異なるテラヘルツ帯応答関数を有することを示唆する結果である。 2)高調波発生の観測を通して非線形応答を調べた。高強度テラヘルツ波を微小剥片WTe2に照射し試料から透過したテラヘルツ波を計測したところ、室温で第2高調波および第3高調波発生の観測に初めて成功した。また、試料の厚みが高調波発生に与える影響について調べたところ、第3高調波は数umという比較的厚い試料においても高効率に発生することが明らかとなった。2次のテラヘルツ非線形応答の結晶方位依存性を調べた。WTe2の対称性から表面ではab面内で2次の非線形応答を示すことが知られており、「入射偏光||b軸、放射偏光||b軸」のほか「入射偏光||a軸、放射偏光||b軸」も許される。後者は特に非線形ホール効果と呼ばれ近年注目を集めている。本実験から「入射偏光||b軸、放射偏光||b軸」における第2高調波発生を観測したが、「入射偏光||a軸、放射偏光||b軸」における第2高調波発生は観測されなかった。このことから、テラヘルツ帯の非線形ホール効果は室温では十分小さいと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高強度テラヘルツ波パルス発生システムを改良して、中心周波数1 THz、電場尖頭値700 kV/cmの高強度パルスが生成できるようになり、テラヘルツ波パルスでワイル半金属の非線形応答をより詳細に調べることが可能となった。ワイル半金属WTe2におけるテラヘルツ帯の線形・非線形応答を室温において精査し、テラヘルツ帯のエネルギー透過率に特異な厚み依存性や高効率なテラヘルツ第2高調波発生を初めて観測したことは大きな成果と考えられる。また、テラヘルツ帯非線形ホール効果が室温では十分小さいという知見を得たことも重要な進展である。以上のことから本研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度では室温におけるテラヘルツ応答を集中的に調べたが、これまで得られた知見をもとにテラヘルツ非線形応答の温度依存性を詳細に調べる。また、これまでは数THzの帯域における応答を調べており、その周波数帯では主にバンド内の電子がテラヘルツ応答に寄与すると考えられる。一方、バンド内とバンド間のクロスオーバー領域の非線形応答まで調べることも重要であると考えており、周波数が一桁あがる数10 THz領域の非線形応答を調べ、テラヘルツ帯非線形応答の包括的な理解を目指す。
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Research Products
(11 results)