2021 Fiscal Year Research-status Report
フラストレーション格子磁性体における新奇トポロジカル電子物性の開拓
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21K13871
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 健太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40835336)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 磁性 / 磁気転移 / 強相関電子系 / イリジウム酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、フラストレーション格子磁性体において、電子間相互作用と相対論的スピン軌道相互作用の協奏が生み出す新しいトポロジカル電子相を開拓することにある。令和3年度では、(a)パイロクロア型ルテニウム酸化物(Pr1-xCax)2Ru2O7において、電子占有率を制御した試料を合成することに成功し、巨大な異常ホール効果を示す強磁性金属相を発見した。(b)パイロクロア型イリジウム酸化物Pr2Ir2O7の単結晶合成を行い、輸送測定と高輝度の放射光を用いて厳密な結晶評価を行なった。(c)パイロクロア型イリジウム酸化物Pr2Ir2O7の質の良い試料において、0.6 Kで長距離秩序することを見出し、金属の物質で初めて磁場誘起の気液相転移を発見した。 (a)3価の希土類イオンから2価のカルシウムイオンに置換することで、実効的にルテニウム4d軌道に正孔をドープすることができた。正孔のドープ量を増やしていくと、反強磁性絶縁体相が消失し、強磁性金属相が現れることを突き止めた。 (b)パイロクロア型イリジウム酸化物Pr2Ir2O7は、長らく量子スピン液体候補の物質として注目を集めていたが、その物性は試料依存性が強く、真の基底状態については未解明であった。本課題では、合成条件を厳密に制御し、試料依存性を細かく調べた。すると、磁気抵抗比が10%に満たない物から50%を超える物まで様々であった。放射光で厳密な構造解析をした結果、磁気抵抗比が小さい試料では、イリジウムサイトに希土類イオンが多く混成し、磁気的秩序を妨げていることが明らかになった。 (c)極低温の比熱測定により、0.6 Kに明確なピークが現れたのを確認した。さらに、磁気輸送特性によって、ホール抵抗率がプラトーを示すことを見出した。これは、絶縁体で見られた気液相転移と類似しており、金属では初めての観測となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまで量子スピン液体の候補物質として注目されていた物質の基底状態を明らかにした、重要な成果である。さらに、その磁気基底状態の発現は、金属相でこれまで報告されていない。したがって、当初の計画よりも進展したと考えられる。 量子スピン液体状態においては、特異な励起状態や強い量子ゆらぎなどの特性が、低消費電力での情報処理に利用できる可能性があるため、スピントロニクスの発展に寄与しうる。そのため、候補物質の探索・解明が急務であったが、イリジウム酸化物に試料育成は困難であるため、実験が滞っていた。本研究では、試料の質を多角的に評価し、物性とアンチミクシングの関係性を突き止めた。アンチミクシングの強い試料では長距離秩序が抑えられ、量子スピン液体状態が現れうるが、組成のズレが少ない試料においては、長距離秩序を示すことがわかった。この磁気構造も非常に興味深いことが判明した。これまで、氷とのアナロジーを持つスピンアイス状態(四面体の四つの頂点上のスピンのうち、二つが四面体の外を向き、他の二つが中を向く状態)が発現していたのは、絶縁体(例えば、Ho2Ti2O7)においてであった。しかし、本研究において、金属でも同様の磁気構造が現れることが判明した。さらに、磁場下において、類似の一次相転移が生じることも突き止めた。以上は、フラストレーション磁性の分野に大きなインパクトを与える画期的な発見と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのトポロジカル物性研究は、元素の選択肢が少なく、かつ電子間相互作用が小さい系が中心であった。本研究では、元素の選択肢が豊富で、元素間の相互作用が重要な役割を果たす物質群に着目し、既存の研究分野の限界を打ち破ることを目標としたい。 具体的には、フラストレーション格子を舞台に、磁性と遍歴電子の関連について研究を進める。特に、磁気的相互作用がもたらす遍歴電子の持つトポロジカルな性質(ベリー位相)の変化について調べたい。 上記のパイロクロア型格子に加えて、ハーフホイスラー型金属間化合物を対象にすることを検討している。後者の磁性イオン副格子は面心立法格子であり、3回回転対称軸から見れば三角形格子と類似している。遷移金属イオンと14,15族元素は、閃亜鉛鉱型の副格子を形成しており、テルル化水銀と類似した電子構造を有する。特に、スピン軌道相互作用が強い系においては、バンドが反転しトポロジカルに非自明な電子状態となる。磁性との結合による時間反転対称性の破れによってもたらされる、トポロジカルな性質変化を伴った相転移を外場によって駆動することができないか検討中である。
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Research Products
(4 results)