2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K13878
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中埜 彰俊 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (50842613)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熱電半金属 / 遷移金属カルコゲナイド / 低次元系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では高い熱電性能を示す半金属Ta2PdSe6のメカニズムの解明、および元素置換による更なる熱電性能の向上を目指し研究を行った。今年度はまず、ゾーン炉や真空封かん用ガスバーナーといった合成環境の整備を行い、良質な単結晶試料の育成に成功した。育成した単結晶について、放射光X線回折による精密構造解析を行い、得られた構造を基にした電子状態計算を行った。その結果、Ta2PdSe6の半金属状態が理論的にも裏付けられた。また、得られた単結晶試料について、電気抵抗率、およびゼーベック係数測定を行った。その結果、1 μΩcmを切る低い抵抗率と40 μV/K 程度のゼーベック係数が両立した特異な物質であることが分かった。Ta2PdSe6の高い熱電性能の起源と予想される高いキャリア移動度を裏付けるため、磁気輸送特性を測定した。その結果、最低温2 Kでは正孔の移動度が電子の移動度よりも2桁以上も大きいことが分かった。この特異的な移動度の差により、電子と正孔のゼーベック係数が非補償になることで巨大な熱電応答が実現していると考えられる。さらに、TaサイトへのNb, PdサイトへのNi, SeサイトへのSといった同価数元素置換を施した単結晶育成を試みた。Nb,S置換試料についてはSEM-EDXによる分析や放射光単結晶X線回折実験によって、概ね仕込み通りの置換が成功していることを確かめた。輸送特性についてもデータが出始めており、キャリアの移動度と熱電応答が強く相関していることを示唆する結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では高い熱電性能を示す半金属Ta2PdSe6のメカニズムの解明、および元素置換による更なる熱電性能の向上を目指し研究を行っている。メカニズムに関しては、高い正孔移動度が鍵となっていることを磁気輸送特性から突き止めた。また、元素置換を施した一連の単結晶についての輸送特性測定によってキャリア移動度とゼーベック係数が相関していることを突き止めつつある。現在のところ二種類の同価数元素置換に成功しており、今後異価数元素の置換を行うことで更なる熱電性能の向上も期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
異価数元素置換を施した単結晶を育成し熱電性能の向上を試みる。また、Ta2PdSe6およびその元素置換物質の熱伝導率測定を行い、総合的に電子状態の解明、および熱電特性の評価を行う。さらに角度分解光電子分光や光学伝導度測定等の手法を用いて電子状態解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2022年3月の日本物理学会が現地開催からオンライン開催に切り替わったために使用できなかった分の旅費は、次年度の日本物理学会出張旅費に使用する。
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Research Products
(9 results)