2021 Fiscal Year Research-status Report
量子スピン液体におけるトポロジカル秩序相の解明と制御
Project/Area Number |
21K13881
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
末次 祥大 京都大学, 理学研究科, 助教 (00893710)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 量子スピン液体 / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
局在スピンが絶対零度においても秩序化・凍結せずに揺らいでいる状態を量子スピン液体と呼ぶ。その中でも量子スピン液体状態を基底状態として持つキタエフ模型は、局在スピンがマヨラナ粒子に分数化するため非可換エニオンなどのマヨラナ粒子によるトポロジカル励起を探索する格好の舞台となっている。 キタエフ模型候補物質としてはα-RuCl3が知られている。この物質はゼロ磁場ではおよそ7K以下でジグザグ型の反強磁性秩序を示すが、Ruが形成するハニカム格子面内に7T以上の磁場をかけると磁気秩序が抑制され、磁場誘起常磁性状態となる。この磁場で誘起された常磁性状態において量子スピン液体状態を実現していることを示すのが本分野の中心的な課題である。そのためには磁場誘起常磁性状態における相転移を検出するのが有効である。 以上の背景から、本研究計画ではキタエフ型量子スピン液体候補物質であるα-RuCl3の単結晶試料において、磁場中の比熱・熱伝導度の精密測定を行った。熱伝導測定では11T程度の磁場で不連続なジャンプを観測し、一次相転移が存在することを明らかにした。さらに比熱測定では同じ磁場でピークを伴った異常を発見し、一次相転移が存在する熱力学的な証拠を得た。さらに、以前に報告された同一の単結晶試料における熱ホール伝導度は11Tに非常に近い磁場で半整数量子化値からズレ始めるため、今回の測定で観測された一次相転移が系のトポロジーに影響を与えていることを強く示唆している。 以上の結果については論文としてまとめてあり、現在は査読中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
キタエフ量子スピン液体候補物質として知られるα-RuCl3の磁場誘起常磁性状態において、量子スピン液体状態が実現していることを示すことは本分野の中心的な課題の一つである。 本研究課題では熱伝導度測定によって一次相転移が存在することを明らかにし、さらに比熱測定を行うことで相転移の熱力学的な証拠を得ることに成功した。非常に興味深いことに、今回観測された一次相転移が生じる磁場は熱ホール伝導度の半整数量子化が消失する磁場と非常に近く、一次相転移がトポロジカル相転移と関係していることを強く示唆している。これらの結果については論文としてまとめてあり、現在査読中である。 以上の結果は本研究課題の目標であるキタエフ量子スピン液体におけるトポロジーの解明につながるものであり、当初の計画以上に研究が進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
ゼロ磁場中のキタエフスピン液体における遍歴マヨラナ粒子のエネルギー分散は、グラフェ ンと同様にギャップレスな線形分散を持ったディ ラックコーン型となる。磁場中のキタエフスピン液体ではディラックコーンにギャップが開き、±1のチャーン数で特徴付けられるようなマヨラナ粒子のチャーン絶縁体状態といったトポロジカル秩序相を実現し、マヨラナ粒子のカイラルエッジ流が現れる。チャーン数の符号は磁場角度で変化することが知られており、異なる符号を持ったチャーン絶縁体間のトポロジカル相転移点ではディラックコーンのギャップが閉じる。ギャップが閉じる磁場角度では遍歴マヨラナ粒子のエネルギー分散はゼロ磁場下と同様にギャップレスな線形分散となりチャーン数もゼロとなる。 これまでに報告されたキタエフ量子スピン液体候補物質α-RuCl3における熱ホール伝導度の半整数量子化とその符号変化は、キタエフ模型から期待されるマヨラナ粒子のチャーン数の磁場角度依存性と矛盾しない結果が得られている。しかしながら、α-RuCl3の熱ホール伝導度はマヨラナ粒子ではなく、マグノンやフォノンによって生じているといった議論もなされており、熱ホール伝導度の起源を明らかにすることは本研究分野の重要な課題の一つである。 以上の背景を踏まえ、今後の方策としては、熱ホール伝導度の面内磁場角度依存性の測定を行うことで熱ホール伝導度の半整数量子化の符号変化の測定を行う。現在は測定の準備中であり、熱ホール伝導度の符号変化と比熱の面内磁場角度依存性の結果と比較することで、熱ホール伝導度の起源を明らかにすることを目指す。
|
Causes of Carryover |
当初の計画では磁場角度依存性測定の準備を初年度から始める予定であったが、磁場中の比熱・熱伝導度の測定によりα-RuCl3の磁場誘起常磁性状態における一次相転移の兆候が観測された。磁場誘起常磁性状態における相転移の存在を明らかにすることは本研究分野の中心的課題であり、当初の計画よりも比熱・熱伝導度測定に時間をかけて取り組んだ。その結果、非常に精密な測定から一次相転移が存在することを示す明瞭な結果が得られた。さらに一次相転移がトポロジカル相転移と関連していることまで明らかにすることができた。以上の結果は論文にまとめてあり、期待以上に研究が進展したと言えるが、角度依存性測定の準備の開始が遅れたため次年度使用額が生じている。 今後は熱ホール伝導度などの磁場角度依存測定を行う予定であり、その準備に次年度使用額に回した分の助成金を使用する予定である。
|
-
-
[Presentation] Field-induced first-order topological phase transition in a Kitaev spin liquid candidate α-RuCl32022
Author(s)
S. Suetsugu, Y. Ukai, M. Shimomura, M. Kamimura, T. Asaba, Y. Kasahara, N. Kurita, H. Tanaka, T. Shibauchi, J. Nasu, Y. Motome, Y. Matsuda
Organizer
APS March meeting 2022
Int'l Joint Research