2022 Fiscal Year Research-status Report
動的平均場理論を用いた共鳴非弾性X線散乱のマルチスケール解析手法の開発と応用
Project/Area Number |
21K13884
|
Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
播木 敦 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 助教 (90875783)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 共鳴非弾性X線散乱 / 第一原理計算 / 近藤効果 / スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近藤転移と共鳴非弾性X線散乱(RIXS)スペクトルの低エネルギー励起構造の関係を調べた。昨年までに開発・整備した密度汎関数理論(DFT)と動的平均場理論(DMFT)に基づくRIXSスペクトルの計算コードを4f軌道自由度を扱えるように拡張した。近藤格子系の典型物質であるCePd3を研究対象として選び、M端RIXSスペクトルの温度依存性を計算し、RIXSの低エネルギー構造が近藤ギャップの形成やCe4fバンドの繰り込みを直接反映することを見出した。欧州の実験グループが最近測定したRIXSの温度変化と今回の計算結果がよく一致していることも確認できた。また、DFT+DMFT法で計算した一粒子スペクトルとRIXSの実験スペクトルの運動量依存性の比較から、近藤格子状態の形成に伴う非占有帯の4f状態の温度変化も明らかにした。また、ブルックヘブン国立研究所の実験グループと共同でFe2O3の高分解能RIXSを調べ、L端RIXSで5次までのマグノンを観測できることを示した。光学遷移選択則を正確に考慮したDFT+DMFT法によるRIXS計算とスピン波理論を用いて計算した運動量分散の結果を組み合わせ、5次までのマグノン分散特性とその光励起機構を明らかにした。L端RIXSの中間状態で内殻軌道に働く大きなスピン軌道相互作用及び内殻電子と価電子の多重項相互作用を正確に考慮することが、高次のスピン励起を理解・予言するために重要であることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RIXSと近藤転移の関係について新たな知見を得ることができ、実験グループと共同で研究成果をNature Communications誌に出版した。さらに当初の予定にはなかったが、Fe2O3のFeL3端RIXSの理論解析を行い、多重マグノンの励起過程と分散特性を明らかにした研究成果をPhysical Reivew X誌に出版した。来年度実施予定である「ボーズ粒子動的平均場理論」を用いた励起子絶縁体の候補物質のRIXS解析を行うための計算コードの開発にも着手することができ、単純なモデルに対して予備計算を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画通り、ボーズ粒子動的平均場理論を用いて励起子絶縁体の計算を行う。必要な計算コードの実装に既に取り掛かっており、内部自由度を簡略化した模型に対して予備計算を行っている。コバルト酸化物やルテニウム酸化物などの候補物質の低エネルギー自由度を適切に考慮できるように計算コードを一般化して、励起子凝縮に伴うRIXSスペクトルの変化を調べていく。また、RIXSの多重マグノンの励起可能性に関して今年度得られた知見をもとに、最近注目されているAltermagnetic系におけるマグノンの分散やそのカイラリティをRIXSを用いて調べる方法も検討していきたい。
|